214-20221228
今回は、弁明の機会に関する条文を作成します。
第〇条(弁明の機会)
諭旨解雇又は懲戒解雇に処する場合には、原則として事前に当該従業員に弁明の機会を与える。
次回は、「弁明の機会」について解説をします。
歯科医院の従業員とのトラブルを防ぎ、安定した職場を維持するための就業規則を提案しています。詳しくは、私のホームページをご覧ください。https://sites.google.com/view/sikakisoku
213-20221221
今回も「諭旨解雇又は懲戒解雇前の出勤拒否の措置」について解説します。
(解説)
3 懲戒処分としての「出勤停止」については前回解説で復習しました。他方「諭旨解雇又は懲戒解雇前の出勤拒否の措置」は懲戒処分ではありません。これは、諭旨解雇事由又は懲戒解雇事由に該当するような重大な非違行為が疑われる場合に、十分な事実関係の調査を行なうために従業員の労務の提供を拒否する(出勤を拒否する)ことをいいます。
4 諭旨解雇又は懲戒解雇の前提となる非違行為を十分に調査せずに処分するのは、後にその有効性が争われたときに困ることになるので、これは必要な労務管理上の措置であるといえます。したがって、この就業規則では、このような出勤拒否の措置を就業規則に明示して労働契約の内容としました。
5 この就業規則では、出社拒否期間中の賃金について無給と定めています。使用者が従業員の労務の提供を拒否した場合、その期間中に賃金を支払う義務があるかどうかが問題になります。従業員の行為が諭旨解雇又は懲戒解雇に該当するような重大な非違行為の疑いがあり、かつ十分な事実関係の調査を行なうために労務管理上必要な措置であるという特段の理由がある場合を考えてみましょう。このような場合は、当該従業員の労務提供を拒否することは使用者の責めに帰すべき事由ではなく、従業員の責めに帰すべき事由であるから、使用者に賃金支払義務はないと考えられます。
6 「諭旨解雇又は懲戒解雇前の出勤拒否の措置」については、状況に応じて具体的に判断する必要がありますから、社会保険労務士などの専門家に相談することをお薦めします。
次回は、諭旨解雇又は懲戒解雇に処する場合の「弁明の機会」に関する条文を考えます。
212-20221207
今回は「諭旨解雇又は懲戒解雇前の出勤拒否の措置」について解説します。
(解説)
1 「諭旨解雇又は懲戒解雇前の出勤拒否の措置」について解説する前に、前に解説した{懲戒処分としての「出勤停止」}について復習しておく必要があります。懲戒処分としての「出勤停止」について、第190回で次のように解説しています。
2 この就業規則は「出勤停止」について、「始末書を提出させて将来を戒めるとともに7労働日以内の期間を定めて出勤を停止し、その間の賃金を支給しない」と規定しています。出勤停止期間中は賃金が支給されず、勤務年数にも算入されないので、出勤停止は従業員にとって過酷な処分といえるでしょう。したがって、出勤停止処分は、非違行為に対して何度も注意や警告を発したにもかかわらず、従業員がその態度を改めなかった場合に限って選択すべきであると考えます。歯科医院では、いきなり出勤停止処分を選択せずに、とりあえず自宅待機命令を発するのが現実的かもしれません。自宅待機命令は、たとえば歯科衛生士が非違行為を行なった場合に、その懲戒処分を決定するまでの間、あるいは他の歯科衛生士や歯科助手に対する悪影響を避けるために、院長が暫定的に当該歯科衛生士に対して就労を禁止する措置のことをいいます。自宅待機期間中の賃金が支払われますから、出勤停止処分とは異なります。院長は、就業規則上の根拠や手続を考慮せずに、日常の指揮命令権を行使して自宅待機命令を発することができます。当該歯科衛生士が反省すれば自宅待機だけで目的を達することができますし、そうでない場合は改めて出勤停止処分をすることになるでしょう。その場合も二重処分禁止には違反しません(以上第190回参照)。
次回も引続き「諭旨解雇又は懲戒解雇前の出勤拒否の措置」について解説します。
210-20221123
今回も「諭旨解雇及び懲戒解雇の事由」について解説します。
(解説)
6 諭旨解雇及び懲戒解雇の事由は多岐にわたるので、そのうちの主要な事由について解説を加えます。今回は不正行為です。この就業規則では、①「医院の金銭又は物品を窃取、詐欺又は横領した場合」、②「自己又は第三者のために金品の供与を受け、不正の利益を得た場合」、③「自己又は第三者のために従業員としての地位を利用し、医院に損害を与えた場合」のような規定があります。従業員は、医院に対して誠実に職務に専念する義務や職場秩序を遵守する義務を負っていますから、①②③の行為はこのような義務に違反し、医院に経済的損害を与えることになるので、諭旨解雇、懲戒解雇などの重い処分が肯定されます。しかし、金銭収受が些少な額であるとか、医院に対する経済的損害が軽微であると推認される場合は、諭旨解雇、懲戒解雇が相当性を欠くものとして無効とされる場合があるので注意が必要です。
次回は「諭旨解雇又は懲戒解雇前の出社拒否」に関する条文を考えます。
208-20221102
今回も「諭旨解雇及び懲戒解雇の事由」について解説します。
(解説)
3 諭旨解雇及び懲戒解雇の事由は多岐にわたるので、そのうちの主要な事由について解説を加えます。今回は経歴詐称です。この就業規則では、「労働契約締結時に最終学歴、職歴、経歴等を偽り、医院の判断を誤らせた場合」と規定しています。
4 裁判例は、詐称された経歴等は「重要な経歴の詐称」であることを要するとしています。重要な経歴等の詐称にあたるものは、最終学歴、職歴、犯罪歴の詐称ですが、それが懲戒事由に該当するかどうかは、偽った経歴等の内容、従業員の職種などに即して具体的に判断されます。この就業規則では、犯罪歴を規定していませんが、犯罪歴の詐称があった場合は、この就業規則に包括規定として「その他前各号に準じる程度の不都合な行為があった場合」と規定されているので、この規定によって対応することになります。
次回も「諭旨解雇及び懲戒解雇の事由」について解説します。
207-20221026
今回も「諭旨解雇及び懲戒解雇の事由」について解説します。
(解説)
2 懲戒処分(懲戒解雇や諭旨解雇を含む)が有効と認められるためにはどのような要件が必要なのか復習しておきましょう。①使用者が懲戒権を有すること。使用者が懲戒権を有するためには、懲戒処分の根拠となる就業規則規定(例:歯科衛生士が歯科医院の機密情報を漏洩した場合<懲戒事由>及びこれに対する懲戒処分<減給等懲戒処分の種別>)が当該処分時に制定されていることが必要であり、これが制定されていない場合、当該処分は根拠を欠くものとして無効になります。②従業員の行為が就業規則の懲戒事由に該当すること(懲戒事由該当性)。これについては、就業規則の文言だけで形式的に判断するのではなく、実質的に判断する必要があり、加えて、歯科医院の職場秩序を現実に侵害した(たとえば、機密を漏洩したことによって医院に損害が発生した)ことを要するとされています。③行なった懲戒が懲戒処分の濫用と評価されないこと。これについては、従業員の行為がたとえ懲戒事由に該当する場合でも、それに対する懲戒処分の相当性(行為と処分のバランス。前例で言えば、軽微な機密の漏洩に対して最も重い懲戒解雇に処するような場合)が問題とされ、それが否定されれば(バランスを失する場合は)懲戒権の濫用となります。④弁明の機会を与えるなど就業規則で定められた手続違反がないこと。これについては、就業規則で従業員に弁明の機会が与えられているにもかかわらず、その手続を経過せずに懲戒処分を行なった場合は、重大な手続違反とされ、懲戒権の濫用と評価されます(解説187回参照)。
次回も「懲戒の種類及び程度」について解説します。
206-20221012
今回は「諭旨解雇及び懲戒解雇の事由」について解説します。
(解説)
1 「懲戒解雇」は、懲戒(制裁)として行なわれる解雇であり、懲戒の中で最も重い処分です。懲戒解雇された従業員は、働く職場と退職金請求権を失うだけでなく、不名誉な処分を受けたために再就職が困難になるという重大な不利益を被ります。したがって、懲戒解雇が適法になされたかどうかについては厳しく判断されることになります(解説193回参照)。「諭旨解雇」は、本人に反省が認められるなどの情状等を斟酌して、懲戒解雇を若干緩和した処分ですが、従業員を失職させる点で不利益を与えることに変わりはありません。したがって、諭旨解雇を行なう場合でも懲戒解雇に準じた厳しい適法性判断が求められることに注意する必要があります(解説192回参照)。
次回も引続き「懲戒の種類及び程度」について解説します。
205-20221005
今回は、「諭旨解雇及び懲戒解雇の事由」の第1項第17号から第22号まで及び第2項の条文を作成します。
第○条(諭旨解雇及び懲戒解雇の事由)
1.従業員が次の各号の1つに該当するときは、その情状に応じ諭旨解雇又は懲戒解雇に処する。但し、改悛の情が顕著であること、過去の勤務成績が優良であったこと等を勘案し、前条の処分にとどめることがある。
⑰
労働契約締結時に最終学歴、職歴、経歴等を偽り、医院の判断を誤らせた場合
⑱
正当な理由がなく、医院が命じる転勤、配置転換、職種変更を拒んだ場合
⑲
医院の金銭又は物品を窃取、詐取又は横領した場合
⑳
その他業務上の指示又は医院の諸規程に著しく違反した場合で行為態様が悪質な場合
㉑ 職場外非行行為により医院の名誉・信用を著しく損ない又は医院に損害を与えた場合、その他職場秩序が著しく乱された場合でその行為態様が悪質な場合
㉒ その他前各号に準じる程度の不都合な行為があった場合
2.他人を教唆又は幇助して前項各号の行為をさせた従業員は、その情状に応じ諭旨解雇又は懲戒解雇に処する。但し、改悛の情が顕著であること、過去の勤務成績が優良であったこと等を勘案し、前条の処分にとどめることがある。
次回は、「諭旨解雇及び懲戒解雇の事由」に関する条文の解説をします。
204-20220928
今回は、「諭旨解雇及び懲戒解雇の事由」の第1項第9号から第16号を作成します。
第○条(諭旨解雇及び懲戒解雇の事由)
1.従業員が次の各号の1つに該当するときは、その情状に応じ諭旨解雇又は懲戒解雇に処する。但し、改悛の情が顕著であること、過去の勤務成績が優良であったこと等を勘案し、前条の処分にとどめることがある。
⑨
医院の許可なく他の組織の役員に就任し、若しくは他に雇用され、又は自ら営業を行なった場合
⑩
重大な医院の秘密を漏洩し、若しくは私的に利用し、医院に重大な損害を与えた場合
⑪
医院の経営に関して真相を歪曲して宣伝流布し、若しくは医院に対して不当な誹謗中傷を行なうことにより医院の名誉若しくは信用を毀損し、又は医院に損害を与えた場合
⑫
個人情報の保護に関する服務規律に違反して医院の名誉若しくは信用を毀損し、又は医院に損害を与えた場合
⑬
報告・届出に関する服務規律に違反して、医院に損害を与えた場合
⑭
報告・届出に関する服務規律又は届出事項等に変更が生じた場合の服務規律に違反して、故意に届出を怠り又は虚偽の届出をするなどして諸給与を不正に受給した場合
⑮
第○条(セクシャルハラスメントの禁止)に違反した場合
⑯
第○条(パワーハラスメントの禁止)に違反した場合
次回は、「諭旨解雇及び懲戒解雇の事由」の第1項第17号から第22号まで及び第2項を作成します。
203-20220921
今回から3回に分けて「諭旨解雇及び懲戒解雇の事由」に関する条文を作成します。
第○条(諭旨解雇及び懲戒解雇の事由の事由)
1.従業員が次の各号の1つに該当するときは、その情状に応じ諭旨解雇又は懲戒解雇に処する。但し、改悛の情が顕著であること、過去の勤務成績が優良であったこと等を勘案し、前条の処分にとどめることがある。
①
自己又は第三者のために従業員としての地位を利用し、医院に損害を与えた場合
②
自己又は第三者のために金品の供与を受け、不正の利益を得た場合
③
火気取締に関する服務規律に違反して火災を発生させ、医院に重大な損害を与えた場合
④
暴行、脅迫、名誉棄損等の行為により、他の従業員、取引先若しくは医院関係者に傷害を負わせ、精神的若しくは財産的損害を被らせ又は職場の秩序若しくは風紀を乱した場合
⑤
故意若しくは重大な過失又は不作為により医院の物品を損壊し、医院に重大な損害を与えた場合
⑥
次のような交通法規違反又は交通事故をおこした場合
ア 酒酔い運転又は酒気帯び運転をした場合
イ 交通違反行為をして、人を死亡させ又は重篤な障害を負わせた場合
⑦
業務目的以外の使用が禁止されているにもかかわらず、これに違反して医院に重大な損害を与えた場合
⑧
医院の名誉若しくは信用を毀損する行為をした場合
次回は、「諭旨解雇及び懲戒解雇の事由」の第9号から第16号までの条文を作成します。
202-20220914
今回は「職場外の非行行為により医院の名誉・信用を損ない、もしくは医院に損害を及ぼし、又は職場秩序を乱した場合」について解説します。
(解説)
7 この就業規則では、「職場外の非行行為により医院の名誉・信用を損ない、もしくは医院に損害を及ぼし、又は職場秩序を乱した場合」はその情状に応じ、けん責、減給、出勤停止又は降職・降格に処すると規定しています。職場外の非行行為には、①犯罪行為、②医院の批判、③内部告発、④医院の秘密の漏洩、⑤競合行為、⑥職場外の言論活動などが考えられます。そもそも懲戒処分の対象となる行為は、職場内における就業時間内の行為に限られるべきです。ですから、①から⑥のような職場外かつ就業時間外の非行行為は私生活上の行為なので、原則として懲戒処分の対象にはならないはずです。しかし、従業員は信義則のうえで、医院の名誉・信用を損なわない義務や医院に損害を及ぼさない義務、職場秩序を乱さない義務等を負っています。したがって、従業員の①から⑥のような職場外かつ就業時間外の非行行為が、医院の名誉・信用を損ない、医院に損害を及ぼし、職場秩序を乱す結果となるような場合には、懲戒処分の対象となり得ます。
8 歯科医院では、④医院の秘密の漏洩が考えられます。業種は異なりますが、重大な企業秘密の漏洩は、従業員の誠実義務違反、守秘義務違反であって、それが同時に企業業績に打撃を与えるなど企業秩序を侵害した場合は懲戒処分が相当であると判示した裁判例があります(古河鉱業事件・東京高裁昭和55年)。ただし、①から⑥のような職場外かつ就業時間外の行為を懲戒処分とすることは、私生活の自由とも抵触するので、その懲戒事由該当性はかなり慎重に判断する必要があります。社会保険労務士にご相談されることをお勧めいたします。
次回は「諭旨解雇及び懲戒解雇の事由」に関する条文を考えます。
201-20220907
今回は「経費の不正な処理をした場合」について解説します。
(解説)
6 この就業規則では、「経費の不正な処理をした場合」はその情状に応じ、けん責、減給、出勤停止又は降職・降格に処すると規定しています。歯科医院で、従業員が交通費や出張費を不正に受給して降職・降格処分に処せられた場合を考えてみましょう。従業員は、医院に対して誠実に労務を提供する義務や職場秩序を遵守する義務を負っています。したがって、交通費や出張費を不正に受給する行為は医院に対して経済的損害を与え、職場秩序を乱すことになりますから、降職・降格処分にされてもやむを得ないと考えられます。他方、交通費や出張費の受給額が少額で医院に及ぼす経済的損害が軽微である場合は、当該懲戒処分は懲戒の相当性を欠き無効とされる可能性があります。
次回も引続き「けん責、減給、出勤停止及び降職・降格の事由」について解説します。
200-20220831
前回に引続き「時間外労働、休日労働、出張等の業務命令を拒んだ場合」や日常業務における上司の指示・命令に違反した場合(業務命令違反)について解説します。
(解説)
5 歯科医院で、上司から患者さんの診療の内容を記録すべきことを命じられた歯科衛生士が、再三にわたって当該業務命令に違反して記録を残さなかったために降職・降格処分に処せられた場合を考えてみましょう。記録を残さなかったという業務命令違反が、他の歯科衛生士の業務を遅滞させあるいは阻害するなど職場秩序を現実に侵害したような場合は、降職・降格処分が重すぎることはないと考えられます。しかし、職場秩序の侵害の程度が上記のような現実的・具体的な危険性を有するとは認められない場合には、当該懲戒処分は懲戒の相当性を欠き無効とされる可能性があります。
次回も引続き「けん責、減給、出勤停止及び降職・降格の事由」について解説します。
199-20220824
前回は、「けん責、減給、出勤停止及び降職・降格の事由」のうち、「出退勤の遵守事項」に違反した場合や「欠勤、遅刻、早退、私用外出の遵守事項」に違反した場合(職務懈怠)について解説しました。今回は、「時間外労働、休日労働、出張等の業務命令を拒んだ場合」や日常業務における上司の指示・命令に違反した場合(業務命令違反)について解説します。
(解説)
4 けん責、減給、出勤停止及び降職・降格の懲戒処分が有効になるためには、①時間外労働、休日労働、出張等の業務命令や上司の指示・命令(以下「業務命令等」という)が、労働契約の範囲内の有効なものかどうか(時間外労働、休日労働命令の場合は、労働基準法に違反していないかどうかの問題もあることに注意)、②業務命令等が有効とされた場合でも、歯科衛生士等の従業員が業務命令等に違反したことによって歯科医院の職場秩序が現実に侵害されたかどうか、③業務命令等違反の程度と懲戒処分を比べて懲戒処分が重すぎないか(懲戒の相当性)などが問題となります。
次回も引続き「けん責、減給、出勤停止及び降職・降格の事由」について解説します。
198-20220810
今回から「けん責、減給、出勤停止及び降職・降格の事由」について解説します。けん責、減給、出勤停止及び降職・降格の事由は多岐にわたるので、そのうちの主要な事由について解説を加えます。
(解説)
1 歯科医院において院長が歯科衛生士等の従業員に、けん責、減給、出勤停止及び降職・降格等の懲戒権を行使できるのは、従業員の行為が単なる労働義務違反(債務不履行)にとどまらず、職場の秩序を現実に侵害した場合又は侵害の実質的危険が考えられる場合です。
2 「出退勤の遵守事項」に違反した場合や「欠勤、遅刻、早退、私用外出の遵守事項」に違反した場合を考えてみましょう(48回「出退勤」、50回「欠勤、遅刻、早退、私用外出」、52回「私傷病欠勤と医師の診断」、54回「無断欠勤」参照)。これらの行為は、それ自体としては単なる労働義務違反(債務不履行)なので、これらの行為がけん責、減給、出勤停止及び降職・降格の対象になるのは、医院の業務に具体的な支障を及ぼし、他の歯科衛生士などに著しい迷惑を与えるなど、懲戒を行なうのに相応しいレベルにまで達している場合に限られます。
3 歯科医院は通常予約制を採用しているので、正当な理由がなく頻繁に無断欠勤をされると医院は大変困ります。無断欠勤はそれ自体は労働義務違反(債務不履行)ですが、再三の注意・指導にもかかわらず改善の見込みがなく、かつ、人事配置に支障を及ぼすようなレベルに至ったときは、降職・降格の懲戒事由に該当すると考えます。
次回も引続き「けん責、減給、出勤停止及び降職・降格の事由」について解説します。
197-20220803
今回は、「けん責、減給、出勤停止及び降職・降格の事由」に関する条文を作成します。
第○条(けん責、減給、出勤停止及び降職・降格の事由)
1.従業員が次の各号の1つに該当するときは、その情状に応じ、けん責、減給、出勤停止又は降職・降格に処する。
①
第○条(遵守事項)に違反した場合
②
第○条(セクシャルハラスメントの禁止)に違反した場合
③
第○条(パワーハラスメントの禁止)に違反した場合
④
第○条(私物持込禁止・所持品検査)に違反した場合
⑤
第○条(貸与パソコンの私用禁止とモニタリング)に違反した場合
⑥
第○条(携帯電話・スマートフォン等の利用)に違反した場合
⑦
第○条(機密情報管理に関する遵守事項)に違反した場合
⑧
第○条(出退勤の遵守事項)に違反した場合
⑨
第○条(欠勤、遅刻、早退、私用外出の遵守事項)に違反した場合
⑩
正当な理由なく、時間外労働、休日労働、出張等の業務命令を拒んだ場合
⑪
経費の不正な処理をした場合
⑫
その他業務上の指示又は医院の諸規定に違反した場合
⑬
職場外の非行行為により医院の名誉・信用を損ない、もしくは医院に損害を及ぼし、又は職場秩序を乱した場合
⑭ その他前各号に準じる程度の不都合な行為があった場合
2.他人を教唆又は幇助して前項各号の行為をさせた従業員は、その情状に応じ、けん責、減給、出勤停止又は降職・降格に処する。
次回は、「けん責、減給、出勤停止及び降職・降格の事由」に関する条文の解説をします。
196-20220727
引続き「懲戒の種類及び程度」について解説します。
(解説)
24 懲戒解雇の場合に退職金を減額又は不支給にすることが当然に許されるわけではありません。退職金は、賃金の後払いの性格や所得保障の意味もありますから、従業員のこれまでの勤続の功労を帳消しにするほど著しい背信行為が認められる場合に限られます。裁判例もこの傾向にあります。歯科医院においては、たとえば歯科衛生士を懲戒解雇した場合、退職金を一律に不支給とするのではなく、この就業規則のように「・・・その状況を勘案し、退職金の全部又は一部を支給しない」(第185回参照)と規定して、院長の裁量権を留保しておくのが実務上は妥当であると考えます。
25 懲戒解雇は、従業員にとってきわめて過酷な制裁であり、その有効、無効を判断するには慎重を要する場合が多く、退職金の減額又は不支給の選択も絡むので、事前に社会保険労務士に相談されることをお薦めいたします。
次回は「けん責、減給、出勤停止及び降職・降格」に関する条文を作成します。
195-20220720
引続き「懲戒の種類及び程度」について解説します。
(解説)
22 懲戒解雇が無効とされた裁判例。会社から嫌がらせを受けた従業員が、弁護士に相談する過程で会社の顧客・人事情報を開示したことを理由として懲戒解雇された事案。裁判所は、企業情報を第三者に開示することは原則として守秘義務違反になるものの、自分を救済するために守秘義務を負う弁護士に顧客・人事情報を開示したものであるから、従業員の義務違反が否定される特段の事情に当たるとして懲戒解雇を無効としました(東京地裁・平成15年)。
23 懲戒解雇が有効とされた裁判例。会社に在職中に、重要な機密情報を転職先に漏らしたことを理由として懲戒解雇された事案。裁判所は、きわめて背信性の高い行為であるとして懲戒解雇を有効としました(東京地裁・平成14年)。裁判例は、暴行、業務妨害、金銭の着服・不正受給、企業秘密の漏洩など、悪質で背信性がきわめて高い行為である場合について懲戒解雇を有効としています。
次回も「懲戒の種類及び程度」について解説します。
194-20220713
引続き「懲戒の種類及び程度」について解説します。
(解説)
20 労働契約法15条は、「使用者が労働者を懲戒することができる場合において、当該懲戒が、当該懲戒に係る労働者の行為の性質及び態様その他の事情に照らして、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、当該懲戒は、無効とする。」と規定しています。懲戒解雇が有効とされるには、①「使用者が労働者を懲戒することができる場合」でなければならず、そのためには懲戒解雇の理由が就業規則に明記されており、②従業員の行為が懲戒解雇の理由に該当し、「客観的に合理的な理由」があると認められ(懲戒解雇事由該当性)、③処分の相当性と手続の適正さにおいて「社会通念上相当」であると考えられる必要があります(社会通念上の相当性の存在)。
21 裁判例は、懲戒解雇事由該当性を厳しく判断するとともに、従業員の義務違反や非違行為の性質・態様、勤務状況や反省状況、使用者の対応の適否などを従業員の有利な方向に考慮し、懲戒解雇権の発動を規制する傾向にあります。歯科医院においても歯科衛生士、歯科助手などの従業員を懲戒解雇することは十分慎重でなければなりません。
次回も「懲戒の種類及び程度」について解説します。
193-20220706
引続き「懲戒の種類及び程度」について解説します。
(解説)
18 この就業規則は「懲戒解雇」について、「予告期間を設けることなく即時に解雇する。但し、労働基準法20条1項但書の定める解雇予告除外事由がある場合には、解雇予告手当を支給しない。懲戒解雇となる者には、その状況を勘案し、退職金の全部又は一部を支給しない」と規定しています。
19 懲戒解雇は、懲戒(制裁)として行なわれる解雇であり、懲戒の中で最も重い処分です。懲戒解雇された従業員は、働く職場と退職金請求権を失うだけでなく、不名誉な処分を受けたために再就職が困難になるという重大な不利益を被ります。したがって、懲戒解雇が適法になされたかどうかについては厳しく判断されることになります。すなわち、歯科医院においては、たとえば歯科衛生士について、職場から排除しなければならないほどの重大な義務違反があり、かつ医院の業務を阻害して実害を発生させた場合には、懲戒権を発動できると解すべきでしょう。
次回も「懲戒の種類及び程度」について解説します。
192-20220629
引続き「懲戒の種類及び程度」について解説します。
(解説)
15 この就業規則は「諭旨解雇」について、「懲戒解雇相当の理由がある場合で本人に反省が認められるときは、解雇事由に関し本人に説諭して解雇することがある。諭旨解雇となる者には、その状況を勘案して退職金の一部を支給しないことがある」と規定しています。諭旨解雇は、本人に反省が認められるなどの情状等を斟酌して、懲戒解雇を若干緩和した処分であり、退職金も全部又は一部が支払われることがあります。
16 裁判例としては、①上司・同僚に対する度重なる脅迫、強要、いやがらせ等の非違行為が重大で懲戒解雇にも値する場合は、退職金を一部支給して諭旨解雇を選択したことは相当であって、解雇有効と判断された例(日本電信電話事件)や、②職場で上司に対する暴行事件を起こした従業員に対し、暴行事件から7年以上経過した後にされた諭旨退職処分(退職願の提出を勧告し即時退職を求めるもの。退職願の提出勧告を含めて「諭旨解雇」の意思表示であると考えられる)が懲戒権濫用として解雇無効と判断された例(ネスレ日本事件)などがあります。
17 諭旨解雇が懲戒解雇を若干緩和した処分だとしても、従業員を失職させる点で不利益を与えることに変わりはありません。したがって、歯科衛生士、歯科助手、歯科受付などの従業員に対して諭旨解雇を行なう場合は、懲戒解雇に準じた厳しい適法性判断が求められることに注意が必要です。
次回も「懲戒の種類及び程度」について解説します。
191-20220622
引続き「懲戒の種類及び程度」について解説します。
(解説)
12 この就業規則は「降職・降格」について、「始末書を提出させて将来を戒めるとともに、職位を解任し若しくは引下げ又は資格のランクを降ろす」と規定しています。歯科医院では、実際には、職位の引下げの結果として資格も引下げることが多いと思われます。たとえば、管理職の職位にあった歯科衛生士が平の歯科衛生士に降職した結果、職能資格が○級から△級に低下し、賃金も減額となるような場合です。
13 懲戒処分としての「降職・降格」は、就業規則上の根拠を要するとともに、懲戒事由該当性及び処分の相当性(労働契約法15条)が求められます(186回参照)。処分の相当性については、当該歯科衛生士の情状、他の懲戒処分との均衡、賃金減額の程度が問題になります。
14 「降職・降格」の範囲は、同一の雇用契約の内容の変更と考えられる範囲に限られますから、たとえば正社員(無期雇用)の歯科衛生士を契約社員(有期雇用)にする処分は、別個の雇用契約への変更となるので許されません。
次回も「懲戒の種類及び程度」について解説します。
190-20220615
引続き「懲戒の種類及び程度」について解説します。
(解説)
10 この就業規則は「出勤停止」について、「始末書を提出させて将来を戒めるとともに7労働日以内の期間を定めて出勤を停止し、その間の賃金を支給しない」と規定しています。出勤停止期間中は賃金が支給されず、勤務年数にも算入されないので、出勤停止は従業員にとって過酷な処分といえるでしょう。したがって、出勤停止処分は、非違行為に対して何度も注意や警告を発したにもかかわらず、従業員がその態度を改めなかった場合に限って選択すべきであると考えます。
11 歯科医院では、いきなり出勤停止処分を選択せずに、とりあえず自宅待機命令を発するのが現実的かもしれません。自宅待機命令は、たとえば歯科衛生士が非違行為を行なった場合に、その懲戒処分を決定するまでの間、あるいは他の歯科衛生士や歯科助手に対する悪影響を避けるために、院長が暫定的に当該歯科衛生士に対して就労を禁止する措置のことをいいます。自宅待機期間中の賃金が支払われますから、出勤停止処分とは異なります。
院長は、就業規則上の根拠や手続を考慮せずに、日常の指揮命令権を行使して自宅待機命令を発することができます。当該歯科衛生士が反省すれば自宅待機だけで目的を達することができますし、そうでない場合は改めて出勤停止処分をすることになるでしょう。その場合も二重処分禁止には違反しません。
次回も「懲戒の種類及び程度」について解説します。
189-20220608
引続き「懲戒の種類及び程度」について解説します。
(解説)
8 この就業規則は「減給」について、「始末書を提出させて将来を戒めるとともに減給する。この場合、減給の額は1事案について平均賃金の1日分の半額とし、複数事案については一賃金支払期間の減給総額が当該賃金支払期間における賃金総額の10分の1を超えないものとする。但し、減給総額が当該賃金支払期間における賃金総額の10分の1を超える部分については、翌月以降の賃金を減ずる」と規定しています。この規定は、過大な減給を抑制する趣旨で設けられた労働基準法91条に添ったものです。
9 懲戒処分としての減給は、たとえば歯科衛生士が歯科医院で働いた結果として発生した賃金債権を一部消滅させることですから、欠勤・遅刻・早退のように労務不提供を理由とする賃金カットや、配転・降格等による賃金減額などは、懲戒処分としての減給には該当しません。
次回も引続き「懲戒の種類及び程度」について解説します。
188-20220601
引続き「懲戒の種類及び程度」について解説します。
(解説)
6 この就業規則の懲戒の種類は、①けん責、②減給、③出勤停止、④降格・降職、⑤諭旨解雇、⑥懲戒解雇の6種類です。以下、これらを順次解説します。
7 この就業規則は「けん責」について、「始末書を提出させて将来を戒める」と規定しています。ここで始末書とは、自己の違法な行為を認めて謝罪し、将来同様の行為を行なわないことを誓約する文書のことです。この「けん責」について、従業員(たとえば歯科衛生士)が始末書を提出しない場合にはどのように対応したらいいのでしょうか。私は、業務命令で始末書の提出を強制することも、始末書を提出しないことに対してさらに懲戒を科すこともできないと考えます。しかし、このような従業員は改善する姿勢に乏しいと考えられますから、人事考課で不利に評価されることになるでしょう。
次回も引続き「懲戒の種類及び程度」について解説します。
187-20220525
引続き「懲戒の種類及び程度」について解説します。
4 懲戒処分が有効と認められるためには、次の4つの要件が必要です。すなわち、①使用者が懲戒権を有すること、②従業員の行為が就業規則の懲戒事由に該当すること(懲戒事由該当性)、③行なった懲戒が懲戒処分の濫用と評価されないこと、④弁明の機会を与えるなど就業規則で定められた手続違反がないこと等です。
5 ①使用者が懲戒権を有するためには、懲戒処分の根拠となる就業規則規定(例:歯科衛生士が歯科医院の機密情報を漏洩した場合<懲戒事由>及びこれに対する懲戒処分<減給等懲戒処分の種別>)が当該処分時に制定されていることが必要であり、これが制定されていない場合、当該処分は根拠を欠くものとして無効になります。
②従業員の行為が就業規則の懲戒事由に該当すること(懲戒事由該当性)については、就業規則の文言だけで形式的に判断するのではなく、実質的に判断する必要があり、加えて、歯科医院の職場秩序を現実に侵害した(前例で言えば、機密を漏洩したことによって医院に損害が発生した)ことを要するとされています。
③行なった懲戒が懲戒処分の濫用と評価されないことについては、従業員の行為がたとえ懲戒事由に該当する場合でも、それに対する懲戒処分の相当性(行為と処分のバランス。前例で言えば、軽微な機密の漏洩に対して最も重い懲戒解雇に処するような場合)が問題とされ、それが否定されれば(バランスを失する場合は)懲戒権の濫用となります。
④弁明の機会を与えるなど就業規則で定められた手続違反がないことについては、就業規則で従業員に弁明の機会が与えられているにもかかわらず、その手続を経過せずに懲戒処分を行なった場合は、重大な手続違反とされ、懲戒権の濫用と評価されます。
次回も引続き「懲戒の種類及び程度」について解説します。
186-20220511
今回から「懲戒の種類及び程度」について解説します。
(解説)
1 この就業規則では、①けん責、②減給、③出勤停止、④降職・降格、⑤諭旨解雇、⑥懲戒解雇等6種類の懲戒処分を定めています。使用者は、従業員の労働契約上の義務違反に対して解雇権や損害賠償請求権を有するわけですが、これらとは別にどうして懲戒処分を科すことができるのでしょうか?
2 これについて、裁判例は、懲戒権を行使するためには、あらかじめ就業規則において懲戒の種類及び事由を定めておくことを要するとしています(フジ興産事件・最高裁平成15年判決)。また、労働契約法は、「使用者が労働者を懲戒することができる場合において、当該懲戒が、当該懲戒に係る労働者の行為の性質及び態様その他の事情に照らして、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、当該懲戒は無効とする」と規定しています(労働契約法15条)。
3 このように、懲戒権は、就業規則の懲戒規定が、内容の合理性と周知を要件に労働契約の内容となり、懲戒権を発生させると考えられます。このような考え方によれば、懲戒権は、就業規則に規定されてはじめて発生するので、就業規則に定めた以外の理由によっては懲戒を行なうことはできないということになります。
次回も引続き「懲戒の種類及び程度」について解説します。
185-20220316
今回は、「懲戒の種類及び程度」に関する条文を作成します。
第○条(懲戒の種類及び程度)
医院は、次の区分により懲戒を行なう。
①
けん責・・・・・始末書を提出させて将来を戒める。
② 減給・・・・・・始末書を提出させて将来を戒めるとともに減給する。この場合、減給の額は1事案について平均賃金の一日分の半額とし、複数事案については1賃金支払期間の減給総額が当該賃金支払期間における賃金総額の10分の1を超えないものとする。但し、減給総額が当該賃金支払期間における賃金総額の10分の1を超える部分については、翌月以降の賃金を減ずる。
③ 出勤停止・・・・始末書を提出させて将来を戒めるとともに7労働日以内の期間を定めて出勤を停止し、その間の賃金を支給しない。
④ 降職・降格・・・始末書を提出させて将来を戒めるとともに、職位を解任もしくは引下げ又は資格のランクを降ろす。
⑤ 諭旨解雇・・・・懲戒解雇相当の理由がある場合で本人に反省が認められるときは、解雇事由に関し本人に説諭して解雇することがある。諭旨解雇となる者には、その状況を勘案して退職金の一部を支給しないことがある。
⑥ 懲戒解雇・・・・予告期間を設けることなく即時に解雇する。但し、労働基準法20条1項但書の定める解雇予告除外事由がある場合には、解雇予告手当を支給しない。懲戒解雇となる者には、その状況を勘案し、退職金の全部又は一部を支給しない。
次回は、「懲戒の種類及び程度」に関する条文の解説をします。
184-20220309
今回も引続き「退職又は解雇時の義務」について解説します。
(解説)
3 業務の引継ぎがなされずに医院が損害を被ったときは、当該従業員に対して損害賠償を請求することができます。しかし、そのためには、医院が現実に損害を被っており、かつ引継ぎが行なわれなかったことと損害との間に因果関係があることが必要です。しかも挙証責任は医院側にあります。したがって、損害賠償が認められるためのハードルはそれなりに高いといえます。やはり、特に患者さんに関する重要な情報は、歯科衛生士や歯科受付などが個人的に管理せず、できる限りオフィシャルに共有する仕組みを構築し、業務の引継ぎがなされずに医院が損害を被らないような組織にしておくことが大切です。
次回は「懲戒の種類及び程度」に関する条文を作成します。
183-20220302
今回は「退職又は解雇時の義務」について解説します。
(解説)
1 この就業規則では、退職又は解雇時の従業員の義務に関して、①業務の引継ぎ、②貸与物品の返還、③債務の返済、④居住施設(寮など)からの退去を規定しています。これらの義務が円滑に履行されれば問題はないのですが、突然出勤しなくなったり、退職を申出たあとに有給休暇をとってそのまま出勤しなくなったり、従業員が業務の引継ぎを拒否するなど、必ずしも円滑に履行されるとは限りません。
2 歯科医院の場合、業務の引継ぎが円滑になされることは医院の運営にとってきわめて重要です。私は、どのような事項を、誰に、どのような方法で引継げばいいのか等を雇用契約の付属文書に具体的に定め、かつ従業員(歯科衛生士、歯科受付など)に説明しておくように指導しています。それでもこれに従わずに退職する従業員に対してどのような対応策が考えられるでしょうか?これについては次回で解説します。
次回も「退職又は解雇時の義務」について解説します。
181-20220209
今回は普通解雇の手続について解説します。
(解説)
35 普通解雇手続の規定内容は第165回を参照してください。第167回から第169回で、その規定内容を詳しく解説していますので参照してください。
36 客観的に合理的な理由がなくて解雇が無効になった場合、従業員の賃金はどうなるのでしょう?民法は、「債権者の責めに帰すべき事由によって債務を履行することができなくなったときは、債権者は、反対給付の履行を拒むことができない」と定めています(民法536条2項)。この場合の債権者とは使用者のことです。歯科医院で歯科衛生士、歯科助手、歯科受付などの従業員を解雇した場合を考えてみましょう。解雇が裁判で無効と判断された場合には、これまでどおりの雇用契約が続いていることになります。しかし、解雇期間中(使用者が従業員の就労を拒否している状態)では、従業員は現実に働くことができないので、労働義務(債務)を履行することができない状態(履行不能の状態)にあります。この履行不能は、合理的な理由もないのに解雇した医院にその責任があるといえますから、従業員は賃金(反対給付)を請求する権利があることになります。このように賃金の面からも、解雇はよほど慎重でなければなりません。
次回は「退職又は解雇時の義務」について解説します。
180-20220126
今回も引き続き「整理解雇」について解説します。
(解説)
33 被解雇者選定の公正性については、歯科医院の場合、ひとりで子どもを育てている歯科衛生士が少なからずいることから、解雇による経済的打撃が大きな従業員は特に慎重に選定すべきでしょう。
34 説明・協議義務について、最近の裁判例はこの要素を重視する傾向にあります。その対象は解雇の対象となる従業員です。説明・協議の場をもたない場合はもとより、客観的な経営資料を十分提示せず抽象的な説明をするに過ぎない場合や、使用者が協議・交渉を一方的に打ち切って整理解雇を強行したような場合は、説明・協議義務違反となります。
次回は「普通解雇」の手続について解説します。
179-20220119
今回も引き続き「整理解雇」について解説します。
(解説)
31 人員削減の必要性について、最近の裁判例は、人員削減をしなければ倒産必至の状況であることまでは要求せず、「高度の経営上の必要性」があれば足りるとして、使用者の経営判断を尊重する傾向にあります。歯科医院の場合、歯科衛生士等の従業員を新規募集するなど人員削減と矛盾するようなことを行なわない限り、人員削減の必要性が肯定されるものと考えます。
32 解雇回避努力義務については、使用者は、従業員にとって解雇よりも打撃の少ない措置(歯科医院の場合、新規採用の停止、昇給の停止、賞与の減額、残業の削減、有期契約従業員の雇止めなど)を講じる義務があるとされています。コロナ禍を理由とする有期契約従業員の整理解雇について、従業員を休業させれば6割の休業手当の支給で済み、しかも「雇用調整助成金」を申請すれば支給した休業手当の大半が補填されるのに、これを申請しなかった場合は、解雇回避努力義務を尽くしたとはいえないとした裁判例があります(仙台地裁決定・令和2.8.21)。
次回も「整理解雇」について解説します。
178-20220112
今回も引き続き「整理解雇」について解説します。
(解説)
29 整理解雇は、①経営困難を理由とする「危機回避型」と、②余剰人員を削減する「合理化型」に分けられます。複数の労働者を解雇するようなイメージがありますが、使用者の経営上の都合を理由とする人員削減であれば、たとえ1名の解雇であっても整理解雇として取扱うべきだとされています。したがって、歯科医院が経営上の都合で歯科衛生士、歯科助手、歯科受付等を一人でも解雇する場合は整理解雇となり、以下に述べる厳しい解雇規制があります。
30 整理解雇が解雇権の濫用にならないかどうかについて裁判例は、整理解雇の4要素(①人員削減の必要性があること、②使用者が整理解雇回避のための努力を尽くしたこと、③被解雇者の選定基準及び選定が公正であること、④労働者に対して必要な説明や協議を行なったこと)を設定し、これらの4要素を含む諸事情を総合考慮して整理解雇の有効性を判断しています。
次回も「整理解雇」について解説します。