2020年12月24日木曜日

 

「資料としてすぐに使える歯科就業規則の雛形」が完成しました。

10人未満の歯科医院でも有益!

歯科医院で、正社員の歯科衛生士が4名、パートの歯科衛生士が3名、アルバイトの歯科助手が2名、歯科受付が1名(従業員合計10名)であれば、院長は就業規則を作成し、所轄労働基準監督署長に届出なければなりません(労働基準法89条)。それでは、10人未満の歯科医院は就業規則を作成する意味はないのでしょうか?

残業の場合を考えてみましょう。A歯科医院の1日の所定労働時間は8時間です。ある日やむなく8時間を超えて残業が必要になりました。しかし、A歯科医院と従業員との間ではもともと8時間の労務提供の約束をしているだけなので、それ以上の労働させるにはその都度従業員の同意が必要になります。院長は従業員の都合も考えずに勝手に残業をさせることはできません。この雛形では、「業務の必要がある場合には所定労働時間外に労働を命じることがある」旨規定しています。つまり、残業を命じる必要がある場合に備えて、就業規則であらかじめ包括的な同意を得ていることになりますから、その都度の同意は必要ありません。

この例からも明らかなように、10人未満の歯科医院でも有益です!是非、この雛形をご活用ください。

202010月完成、A4版 30ページ

価格(税込み) 1冊 4,800円 

詳しくは、ホームページをご覧ください。

https://sites.google.com/view/sikakisoku

2020年12月15日火曜日

 

「資料としてすぐに使える歯科就業規則の雛形」が完成しました。

この「資料としてすぐに使える歯科就業規則の雛形」の特徴のひとつは、「服務規律」を詳細に規定したことです。歯科医院は患者さんの健康を預かる仕事ですから、仕事のやり方、職場のありかた、患者さんに対する対応などについて、高い秩序を保っていることが必要です。

歯科医院が職場の秩序を保つために、就業規則にどのような内容を規定すればいいのでしょうか?

この雛形はそのために必要な内容を網羅していますから、院長が就業規則を作成し又は従来の就業規則を見直しする場合に大いに参考になります。ぜひ、ご活用ください。

202010月完成、A4版 30ページ

価格(税込み) 1冊 4,800円 

詳しくは、ホームページをご覧ください。

https://sites.google.com/view/sikakisoku

 

2020年12月8日火曜日

 

20201208

今回は、「妊産婦従業員の労働時間」の解説をします。

(解説)

1 「妊産婦」とは、妊娠中の女性及び産後1年を経過していない女性をいいます(労働基準法64条の3第Ⅰ項)。労働基準法は、妊産婦が請求した場合は、たとえ時間外労働の労使協定や休日労働の労使協定を締結していても、法定時間外労働や法定休日労働をさせてはならないとしており(労働基準法66条2項)、同様に妊産婦が請求した場合は深夜労働をさせてはならないとしています(労働基準法66条3項)。歯科医院における業務、特に歯科衛生士の業務は立って行なう業務が多いので、時間外労働、休日労働、深夜労働を禁止することは、母性保護の見地からも重要です。

2 労働基準法は、妊産婦が請求した場合には、災害等による臨時の必要がある場合であっても、時間外労働、休日労働をさせてはならないとしています(労働基準法66条2項)。これをふまえて、たとえ就業規則で緊急災害時の時間外労働、休日労働を命令する規定を設けていても、妊産婦従業員には時間外労働、休日労働をさせないことにしました。

次回も、「妊産婦従業員の労働時間」の解説をします。

2020年11月23日月曜日

 

130-20201123

今回は「妊産婦従業員の労働時間」に関する条文を作成します。

第○条(妊産婦従業員の労働時間)

1. 医院は、妊娠中及び産後1年を経過しない女性従業員が請求した場合には、第○条(時間外労働命令)、第○条(休日労働命令)に基づく労働及び深夜労働をさせないものとる。

2.医院は、前項の従業員が請求した場合には、第○条(緊急災害時等の時間外労働・休日労働)に基づく労働をさせないものとする。

3.医院は、第1項の従業員が請求した場合には、変形労働時間制を定めている場合であっても、1週間について40時間、1日8時間を超えて労働させないものとする。

次回は、「妊産婦従業員の労働時間」の解説をします。

2020年11月5日木曜日

 

「資料としてすぐに使える歯科就業規則の雛形」が完成しました。

現在就業規則を制定しそれに基づいて労務管理を行なっている歯科医院の場合は、その就業規則に変更すべき箇所がないか、あるとすればどのように変更すべきか、この「雛形」がそのヒントと情報を提供します。

これから就業規則の制定を考えている歯科医院は、この「雛形」から必要な条項を選び、必要に応じて削除・変更することによって、自院に最適な就業規則を制定することができます。

価格(税込み) 1冊  4,800

詳しくは、ホームページをご覧ください。

 

129-20201020

今回も引続き「特別休暇」の解説をします。

(解説)

3 本条3項は、特別休暇の取得手続を定めています。原則として文書によって申請し、院長の承認を受けることとしています。慶弔等特別休暇の事由は従業員の私的生活領域で発生するものなので、院長は通常これを知ることができません。ですから、特別休暇を取得できる場合を限定的に定め、かつ運用を厳格にしないとずさんな権利行使が行なわれるおそれがあります。ただし、出産や死亡は予測が困難ですから、事後に申請することも可能にしました。

4 本条第4項は、特別休暇の取得手続を守ってもらうために、これを怠った場合は原則として無断欠勤として取扱うこととしました。 

5 本条第5項は、特別休暇中の賃金の支払について、所定労働時間労働した場合に支払われる通常の賃金を支払うこととしました。ただし、第18号(裁判員等になった場合)については、日当が支給される場合がありますから、どのような取扱にするかは社会保険労務士にご相談ください。

次回は、「女性従業員の労働時間・休憩・休暇」に関する条文を作成します。

2020年10月27日火曜日

 「資料としてすぐに使える歯科就業規則の雛形」が完成しました。

労働条件に関する従業員の疑問や質問に対して、どのように説明したらいいものか困った経験はありませんか?

労働法の大改革である働き方関連法令が成立し、その一部は歯科医院など中小規模の事業所に対しても、2019年4月から適用されていますが、従来の就業規則や雇用契約を見直す必要はありませんか? 

この「雛形」は、院長が従業員の労働条件に関する疑問や質問に対して回答し、トラブルを避け、従来の就業規則や雇用契約を見直すための参考資料となることを目的に作成しました。

従業員の採用から退職までの人事・労務管理に必要な条文を網羅し、かつ参考にしたい条項を容易に検索できるように目次をつけたので、参考資料として大いに活用していただけるものと思います。

価格(税込み) 1冊 4,800円 

詳しくは、ホームページをご覧ください。

https://sites.google.com/view/sikakisoku

2020年9月30日水曜日

 

128-20200930

今回は「特別休暇」の解説をします。

(解説)

1「特別休暇」は「年次有給休暇」と異なり、必ずしも付与しなければならないものではありません。しかし、歯科医院において特別休暇は、従業員を確保し定着させるために有効な制度です。 また、年次有給休暇が発生していない従業員に慶弔事由が発生したため休暇をとらざるを得ない場合に、この日を欠勤にして無給とすることは当該従業員にとって酷な場合があります。このような理由から、歯科医院の多くは特別休暇を付与する傾向にあります。

 2 第1項1号(結婚休暇)は、常識の範囲を超えた時季に突然特別休暇を申請されるのは労務管理上困りますから、入籍日から起算して6か月以内に取得しなければならないという制限を加えています。また、最近では海外新婚旅行などが増える傾向にあるので、特別休暇の日数には歯科医院の休診日(定休日)を含むこと(第2項)としています。

次回も引続き「特別休暇」の解説をします。

2020年9月3日木曜日


127-20200903

今回は、「特別休暇」に関する条文を作成します。

第○条(特別休暇)
1 次の各号の一に該当するときは、従業員の請求により、当該各号に定める日数の特別休暇を与える。
  従業員が結婚するとき(入籍日から起算して6か月以内に取得するものとする) 連続○日
  子が結婚するとき  ○日
  兄弟姉妹が結婚するとき  ○日
  妻が出産するとき  ○日
  配偶者、子、父母(養父母を含む)が死亡したとき  ○日
  孫、兄弟姉妹、本人の祖父母、配偶者の父母が死亡したとき  ○日
  兄弟姉妹の配偶者、配偶者の祖父母、配偶者の兄弟姉妹が死亡したとき  ○日
  従業員が、裁判員、補充裁判員又は裁判員候補者となった場合  必要な日数又は必要な時間
  その他前各号に準じ歯科医院が必要と認めたとき  必要と認めた期間
2 前項第1号の休暇日数には、歯科医院の休診日(定休日)を含むものとする。
3 従業員は、第1項の特別休暇を取得しようとする場合、歯科医院に対して事前に文書により申請し、その承認を受けなければならない。
但し、第1項第4号から第7号の場合について、やむを得ない事由により事前に申請することができないときは、事後すみやかに申請して承認を得なければならない。
4 従業員が前項の手続を怠った場合は、原則として無断欠勤として取扱う。
5 前項の特別休暇期間中については、歯科医院の休診日(定休日)を除き、所定労働時間労働した場合に支払われる通常の賃金を支給する。

次回は、「特別休暇」に関する条文の解説をします。

2020年8月26日水曜日


126-20200826(新型コロナ対応「労働条件の変更(賞与の不支給・減額)」)解説

引続き、新型コロナウイルスの影響により従来の労働条件を変更せざるを得なくなった場合の対応について解説します。

今回も引続き「賞与の不支給・減額」について解説します。

5 これまで支給してきた賞与を不支給あるいは減額できるかどうかは、具体的な賞与請求権が発生しているか否かによって異なります。
第1の場合のように、賞与の支給金額が定まっているときは、医院がこれを支給しない、あるいは減額する場合は、個々の従業員の同意が必要になります。
同意が得られない場合は、就業規則をたとえば第3のように変更する必要があります。
これは就業規則を不利益に変更することですから、この変更に「合理性」があるかどうかで、その変更の効力の有無が決まることになります。
合理性の内容については、「定期昇給の凍結」で解説したとおりです。
新型コロナウイルスの影響によって医院の業績が悪化したために、賞与を不支給あるいは減額する場合には、合理性は比較的認められやすいと思われます。

6 第2及び第3の場合のように、具体的な賞与請求権が発生していない場合は、使用者には賞与の支給義務がないので、これまで支給してきた賞与を不支給あるいは減額することは、原則的に可能であると思われます。

次回は、「特別休暇」に関する条文を作ります。

2020年8月13日木曜日

 

125-20200813(新型コロナ対応「労働条件の変更(賞与の不支給・減額)」)解説

 

引続き、新型コロナウイルスの影響により従来の労働条件を変更せざるを得なくなった場合の対応について解説します。

 

今回から2回にわたって歯科医院の「賞与の不支給・減額」について解説することにします。

 

1 賞与とは、「定時または臨時に、原則として労働者の勤務成績に応じて支給されるものであって、その支給額が予め確定されていないもの」とされています(行政通達)。また、裁判例では、賃金は「労務提供があれば使用者からその対価として必ず支払われる雇用契約上の本来的債務」であるが、賞与は「支給するか否か、支給するとして如何なる条件のもとで支払うかはすべて当事者間の特別の約定(ないしは就業規則等)によって定まる」(梶鋳造書事件・名古屋地裁昭和55年判決)とされています。したがって、従業員が使用者に対して賞与の支払を請求するためには、就業規則の規定や雇用契約がどのようになっているか、場合を分けて検討する必要があります。

 

2 まず第1に、就業規則や雇用契約書で、たとえば「賞与は毎年6月及び12月に、それぞれ基本給の1.5か月分を支給する」というような規定がある場合です。このような場合は、賞与の支給金額、支給時期が具体的に定まっていますから、従業員は歯科医院に対して賞与の具体的請求権をもっていることになります。したがって、医院はその定まっている賞与額を支払わなければなりません。就業規則や雇用契約書に規定がなくても、面接・採用時にたとえば「賞与は年に基本給の3か月分を支給する」というような口約束(合意)をしていた場合も同様です。賞与の支給金額、支給時期、計算方法等について労使間の合意を認め、従業員の賞与の請求を肯定した判例があります(パン・アメリカン航空事件・千葉地裁佐倉支部昭和56年判決)。

 

3 第2に、就業規則や雇用契約書で、たとえば「賞与は毎年6月及び12月に支給する」というような規定がある場合です。このような場合は、使用者は賞与を支給することは約束していますが、具体的な支給金額はまだ定まっていません。判例は、賞与の具体的な請求権は、就業規則等における支給金額またはその算出基準が定められてはじめて発生するものであり、単に賞与を支給する旨の規定によっては具体的な請求権は発生しないとしています(御国ハイヤー事件・高松高裁昭和63年判決)。

 

4 第3に、就業規則に「賞与は、毎年6月及び12月に支給する。但し、医院の業績によって支給できないことがある。賞与の額は、別に定める基準により、歯科医院に対する貢献度等を総合的に評価してこれを算定する」のような規定を設けている場合です。このような場合は、賞与を支給するかどうかは医院の裁量の問題となり、また支給金額は貢献度等の評価にかかわっていますから、評価の結果が出るまでは従業員の具体的な賞与請求権は発生しないものと考えられます。判例も、賞与請求権は使用者による人事考課査定に基づき個々人の支給額が決定されたときに具体的な請求権として発生するとし、人事考課査定が終わる前に退職した従業員については賞与請求権は発生しないとしています(N興業事件・東京地裁平成15年判決)。

 

次回も引続き「賞与の不支給・減額」について解説します。

2020年8月6日木曜日


123-20200806(新型コロナ対応「労働条件の変更(定期昇給の凍結)」解説

今回も引続き「定期昇給の凍結」について解説します。

6 定期昇給を凍結(見送り)することができるかどうかについては、場合を分けて考える必要があります。
まず第1に、就業規則や給与規程に定期昇給についての定めがある場合です。
たとえば「毎年4月に、基本給を○○パーセント昇給させる」とか「毎年4月に、別表で定める給与を1号俸昇給させる」のような規定がある場合はどうでしょうか。
このような定めがある場合には、昇給額を具体的に計算することができるので、従業員には賃金支払請求権が発生することになります。
このような規定のもとで、定期昇給を凍結する(見送る)ことは、約束されていた賃金を受け取ることができなくなることですから、労働条件の不利益変更になることは明かです。

7 第2に、就業規則や給与規程に定期昇給についての定めがあっても、たとえば「昇給は、毎年4月に本人の年齢、勤務状況、医院に対する貢献度等を総合的に勘案してその額を決定する」とか「給与改定(昇給・降給)は、医院の業績等を考慮して原則として毎年4月に辞令を交付し、当該辞令に定める金額を5月の給与支給日から支給する」というような定めになっている場合はどうでしょうか。
このような場合には、医院は定期昇給の義務は負っているものの、まだその具体的な金額が確定しているわけではないので、定期昇給をしなかったとしても、直ちに労働条件の不利益変更になるわけではありません。

8 第3に、就業規則や給与規程がなく(それがあっても、その規定の内容に準拠せずに、異なる別の基準を示して)、長年にわたり慣例的に定期昇給を行なってきた医院が、売上の減少により定期昇給を凍結(見送り)した場合はどうなるでしょうか。
このような場合、医院と従業員の間には、毎年定期昇給が行なわれるという“黙示の合意”が成立していると考えられますから、個々の従業員の合意(同意)を得ずに定期昇給を凍結する(見送る)ことは、労働条件の不利益変更になると考えられます。
現実には、このような運用をしている歯科医院が多いと思われます。
裁判例では、9年間にわたり使用者が定期昇給額の算定方法を説明し、その説明内容にしたがって定期昇給がなされてきたという事案に対して、労使間には黙示の合意が成立しているとしたものがあります(三和機材事件・平成22年千葉地裁判決)。

次回も引続き「定期昇給の凍結」について解説します。



2020年7月22日水曜日


122-20200730(新型コロナ対応「労働条件の変更(定期昇給の凍結)」解説

引続き、新型コロナウイルスの影響により従来の労働条件を変更せざるを得なくなった場合の対応について解説します。

今回から数回にわたって「定期昇給の凍結」について解説することにします。

1 患者さんが新型コロナウイルスに感染するのを避けるために受診(通院)を控える傾向がみられ、それによって経営状況が悪化した医療機関が少なくないといわれます。
歯科医院の多くは、これまでも競争過多による患者さんの減少などで経営環境は必ずしも良好とはいえない状況でした。
加えて、新型コロナウイルスの影響による受診(通院)控えでさらに売上を減らした医院があるといいます。
このような状況に鑑みて、定期昇給を凍結する(見送る)ことができるのか、できるとしたらどのような条件が必要かについて考えてみましょう。

2 ここで、「定期昇給」と「ベース・アップ」の違いについて触れておきます。
「定期昇給」とは、毎年一定の時期を定め、従業員の能力や医院に対する貢献度等を勘案しつつ、定期的に賃金の基本的部分を増額することです。 

3 たとえば、21歳のDHAさんの基本給が250,000円の場合、これを5,000円増額して255,000円にすることが「定期昇給」です。
「ベース・アップ」とは、DH全員の賃金水準を一律に引き上げるものです。

4 たとえば、DH全員の基本給を2,000円引き上げて、21歳のAさんの基本給250,000円を252,000円に、22歳のBさんの基本給260,000円を262,000円に、23歳のCさんの基本給270,000円を272,000円にすることを「ベース・アップ」といいます。

5 定期昇給とベース・アップを同時に行なうと、たとえば、Aさんの基本給は257,000円になります。
定期昇給もベース・アップも人件費の増加になります。
定期昇給は、中途退職や定年退職によって従業員が入れ替るので人件費の負担はそれほど増しませんが、ベース・アップは、全員の基本給を底上げすることですから、将来にわたって人件費の負担が増すことになります。

次回も引続き「定期昇給の凍結」について解説します。

2020年7月16日木曜日


121-20200716(新型コロナ対応「労働条件の変更(就業時間の繰上げ・繰下げ)」解説

今回も引続き、公共交通機関を利用して通勤する従業員が新型コロナウイルスに感染するのを防止するために、臨時的に就業時間を繰上げる(早くする)又は繰下げる(遅くする)場合について解説します。

3 新型コロナウイルスの感染を避けるために臨時的に始業・終業時刻を変更するのではなく、就業規則で定める始業・終業時刻を将来にわたって恒常的に変更する場合には、就業規則を変更し、従業員の意見書を添付して、所轄労働基準監督署長に届出る必要があります。
この場合に問題になるのは、たとえば、勤務時間帯を大幅に夜間の勤務時間帯にシフトするなど変更の幅が大きい場合には、従業員にとって労働条件の不利益変更となる可能性があることです。
労働契約法は、労働条件の変更は合意によるとする原則を確認し(労働契約法8条)、次いで就業規則による労働条件の不利益変更は原則として労働者との合意によらずに行なうことはできないと規定しています(同法9条)。
そのうえで、①変更の合理性、②変更後の就業規則の周知という2つの要件を満たした場合に限り、例外的に就業規則による不利益変更を認めています(同法10条)。
なお、就業規則を作成していない歯科医院が、新規に就業規則を作成した場合、その就業規則の規定によってそれまで適用されていた労働条件が不利益に変更された場合も、同法10条を類推適用し、①及び②の要件を満たした場合に限り、新規に作成した就業規則による不利益変更を有効とすることになります。
労働条件の不利益変更については、合意(同意)の認定、変更の合理性、周知の方法など難しい問題がありますので、社会保険労務士にご相談下さい。

次回は、「業績不振による定期昇給の凍結」について解説します。



2020年7月9日木曜日


120-20200709(新型コロナ対応「労働条件の変更(就業時間の繰上げ・繰下げ)」解説

今回も引続き、公共交通機関を利用して通勤する従業員が新型コロナウイルスに感染するのを防止するために、臨時的に就業時間を繰上げる(早くする)又は繰下げる(遅くする)場合について解説します。

2 労働契約上はいったん成立した始業・就業時刻の合意を医院が一方的に変更することはできず、個々の従業員の同意を得る必要があります(労働契約法8条)。
実務上は、従業員全員の同意が得られない場合に備えて、あらかじめ就業規則に「業務上やむを得ない事情により、始業時刻、終業時刻を繰上げ又は繰下げることがある」のような規定を設けて、医院に始業・終業時刻を変更する裁量権を確保しておく方法がとられています(この就業規則作成講座でも同様の規定を設けています)。
ただし、歯科医院では、子供を保育園に預けて働いている女性従業員が少なくありませんから、たとえ就業規則にこのような規定がある場合であっても、送り迎えに影響がないように特別の配慮をする必要があると考えます。

次回も引続き「就業時間の繰上げ・繰下げ」について解説します。


119-20200709(新型コロナ対応「労働条件の変更(就業時間の繰上げ・繰下げ)」解説

これから数回にわたって、新型コロナウイルスの影響により従来の労働条件を変更せざるを得なくなった場合の対応について解説します。

今回は、公共交通機関を利用して通勤する従業員が新型コロナウイルスに感染するのを防止するために、臨時的に就業時間を繰上げる(早くする)又は繰下げる(遅くする)場合について解説します。

1 始業時刻が9時、終業時刻が18時で、休憩時間が1時間(実労働時間8時間)の歯科医院で、実労働時間と休憩時間帯は変えずに、始業時刻を10時00分、終業時刻を19時00分に変更する場合について考えてみましょう。
労働基準法は、労働時間を繰上げ又は繰下げる場合について何も規定していません。
行政解釈では、「交通機関の早朝ストライキ等1日のうち一部の時間帯のストライキによる交通事情等のため、始業・終業時刻を繰下げ、繰上げることは、実働8時間の範囲内である限り時間外労働の問題は生じない」とか、停電等で一時業務を中断して自由に休憩させ、送電回復後に休憩させた時間ぶんだけ終業時刻を繰下げた場合について、「労働時間が通算して1日8時間又は週の法定労働時間以内の場合には割増賃金の支給を要しない」としています。
このように、医院が1週40時間、1日8時間を超えない範囲で就業時間を臨時的に繰上げ又は繰下げることは、労働基準法に違反するものではありません。

次回も引続き「就業時間の繰上げ・繰り下げ」について解説します。

2020年6月26日金曜日



118-20200626(新型コロナ対応「雇用調整助成金」 解説3)

今回も引続き「雇用調整助成金」について解説します。

9 申請書類は、厚生労働省のホームページからダウンロードし、これに入力して作成します。スムーズに入力するためには、あらかじめ「雇用保険適用事業所番号」、従業員の「雇用保険被保険者番号」、法人の場合は「法人番号」、「給与明細書」、「預金通帳」等を用意しておきましょう。

10 添付書類の「①売上簿」とは、休業した月の売上高及び1年前の同じ月の売上高を確認できる書類(「損益計算書」、「売上台帳」など)です。新型コロナウイルスの影響によって、売上が5%以上減少していることが必要です。

11 賃金支払期間に一部だけ休業した場合の給与明細書の記載は、実際に勤務した部分の賃金と、休業手当として支給した額を明確に区別して記載することが必要です。

次回は、新型コロナウイルスの影響により、労働時間、休日などの労働条件を変更する必要が生じた場合の対応等について解説します。

2020年6月18日木曜日


117-20200618(新型コロナ対応「雇用調整助成金」 解説2)

今回は、「雇用調整助成金」の申請手続と添付書類について解説します。

5 申請に必要な書類は、①休業実績一覧表、②助成率確認表、③雇用調整助成金支給申請書、④支給要件確認申立書(緊急雇用安定助成金)です。
雇用保険被保険者である従業員と雇用保険被保険者ではない従業員の申請書類は異なりますので、注意してください。

6 添付書類は、①売上簿、②タイムカード、③給与明細書、④役員名簿、⑤預金通帳(写)です(雇用保険被保険者である従業員と雇用保険被保険者ではない従業員共通)。

7 提出する必要はありませんが、「休業協定書」は必ず作成してください。協定する内容は、①休業の時期、②休業の対象者、③休業時間、④休業手当の支払基準、⑤雑則(休業協定の発効日、失効日、その他)です。

8 「休業協定書」の[④休業手当の支払基準]には、(ア)1日あたりの休業手当の額(月給の場合と時間給の場合)、(イ)1時間あたりの休業手当の額(月給の場合と時間給の場合)、(ウ)休業手当の率(60パーセント以上)を協定する必要があります。


2020年6月16日火曜日


116-20200616(新型コロナ対応「雇用調整助成金」 解説1)

今回は、「雇用調整助成金」の解説をします。

1 新型コロナウイルスの影響によって、パートタイマーを休ませ、正社員も交代で出勤することにした歯科医院も少なくないと聞いています。特に訪問歯科医療は、大幅に業務を縮小せざるを得ない状況であろうと思われます。

2 医院が従業員を解雇せずに、一時的に休ませることによって雇用を維持した場合、従業員に賃金の6割以上の「休業手当」を支払う必要がありますが、この休業手当の一定割合を医院に助成するのが雇用調整助成金です。

3 雇用調整助成金の申請は、提出書類や添付書類が多くとても煩雑なため、申請をあきらめざるを得ないという苦情が多くありました。このため、厚生労働省が519日に公表した支給申請マニュアルでは、その煩雑さが幾分緩和されています。

4 加えて、①630日までとしていた特例期間を930日まで延長し、②助成金の上限を15,000円に拡大し、③解雇などを行なっていない中小企業の場合、助成率を10分の10にするなど、追加の拡充を行なっています。

次回は、申請手順と添付書類の解説をします。



2020年6月11日木曜日


115-20200611

新型コロナウイルスが発生し、あらゆる業種がその影響を受けて、従業員を休業させなければならない状況となりました。このため私も「雇用調整助成金」の申請業務に奔走せざるを得なくなり、ブログを中断しておりました。

少し状況が落ち着きましたので、ブログを再開いたします。再開するにあたり、まず「計画年休」の解説を完成させます。引続いて「雇用調整助成金」の解説をしたいと思います。

(「計画年休」の解説)
7 2019年4月から、10日以上の有給休暇が付与されるすべての従業員に対して、毎年5日間、時季を指定して有給休暇を与えなければならなくなりました(年次有給休暇の義務化)。
これは全企業を対象に一律に適用されるので、中小企業に対する猶予措置はありません。歯科医院も直ちに対策を考える必要があります。

8 年次有給休暇の義務化の対象となる従業員とは、年次有給休暇の付与日数が10日以上の従業員です(管理監督者、有期雇用従業員を含みます)。
従業員が自分で5日以上の年次有給休暇を取得している場合は、医院がこれに加えてさらに5日の年次有給休暇を与える義務はありません。

9 歯科医院の多くはパートタイム従業員(週所定労働時間が30時間未満で、かつ週所定労働日数が4日以下又は年間所定労働日数が216日以下のパートタイムのDH等)を雇用しているので注意が必要です。
パートタイム従業員については、下表のとおり勤続年数に応じた日数の年次有給休暇が付与されます。ですから、例えば週4日勤務のDHの場合、3年6か月継続勤務し、直近1年間の出勤率が8割以上であれば、10日の年次有給休暇が付与されるので、年次有給休暇の義務化の対象になります。

労働日数
所定労働日数
勤 続 年 数

6ヵ月

1年
6ヵ月
2年
6ヵ月
3年
6ヵ月
4年
6ヵ月
5年
6ヵ月
66月以上
4
 169日~216
7
8
9
10
12
13
15
3
 121日~168
5
6
6
8日
9
10
11
2
  73日~120
3
4
4
5
6
6
7
1
  48日~ 72
1
2
2
2
3
3
3

10 歯科医院における年次有給休暇の義務化に対する対策としては、計画年休制度をお薦めしています。
歯科医院の多くは、必ずしも年次有給休暇の取得率が高くありません。
この際、計画年休制度を導入して従業員の年次有給休暇を増やす方向で考えてみてはいかがでしょうか?
計画年休制度を導入して、年次有給休暇を全部消化する方針に切替えた医院の従業員定着率は極めて高いものがあります。

11 医院は「年次有給休暇管理簿」を作成し、3年間保存しなければなりません。
なお、年次有給休暇の規定に違反した場合(労働基準法39条7項、同89条、同39条<7項を除く>違反など)には罰則が科されることがあります。
年次有給休暇管理簿、罰則など、詳しくは社会保険労務士にご相談下さい。

次回は、「雇用調整助成金」の解説をいたします。


2020年1月15日水曜日


114-20200115

今回も引続き「計画年休」の解説をします。

(解説)
4 計画年休により年次有給休暇を付与する方法としては、①医院全体で休業して一斉に付与する方法(一斉付与方式)、②チーム(班)ごとに交代で休業して付与する方法(交代制付与方式)、③年次有給休暇付与計画表によって個人ごとに休業して付与する方法(個人別付与方式)などが考えられます。
歯科医院の場合は、個人別付与方式が無難なので、私はこの方式をお薦めしています。

5 計画年休を行う場合は、労使協定が必要です(届出は不要)。
上記③の個人別付与方式の場合は、計画表を作成する時期や付与の手続等を労使協定に定めることになります。
歯科医院では、小さな子どもを一人で育てている女性従業員も少なくありませんし、介護をしている従業員もいます。
このような場合に、医院が従業員本人の希望の有無にかかわらず一方的に計画付与することは適当ではないので、労使の事前協議によって調整するとか、計画付与の対象から除外するなどの配慮が必要になります。

6 突発的な事態が発生したり、やむをえない業務上の必要により労働の必要が生じた場合に、いちど定めた計画年休日を変更する必要が生じますが、当該労使協定に変更に関する定めがなければ計画年休日を変更することができません。
このような場合に備えて、たとえば「業務の運営に著しい支障をきたす場合には、医院は本協定による年次有給休暇日を他の日に変更することができる」のような変更権を定めておく必要があります。

次回も引続き「計画年休」の解説をします。

2020年1月8日水曜日


113-20200108

今回は「計画年休」の解説をします。

(解説)
1    年次有給休暇の計画的付与(計画年休)は、年次有給休暇の取得を促進する目的で、
従業員が職場に気兼ねすることなく年次有給休暇を所得できるようにするために1987
年(昭和62年)の労働基準法の改正で導入されたものです。

2 計画年休を実施するためには、①労使協定を締結すること、②従業員が有する有給休暇のうち「5日を超える部分」について計画的に付与することが必要です(つまり、年次有給休暇のうち5日<前年度からの繰越分を含めて5日でよい>を従業員が自由に取得できる日数として残しておかなければならないということです)。

3 我が国で有給休暇の取得日数がきわめて少ないのは、従業員本人が請求(時季指定)しない限り取得が行われないところに大きな原因があると考えられるので、これを改善するためには、労使協定によって、従業員の請求がなくても使用者が強制的に付与することが有効であると考えられたからです。

次回も引続き「計画年休」の解説をします。