2020年8月6日木曜日


123-20200806(新型コロナ対応「労働条件の変更(定期昇給の凍結)」解説

今回も引続き「定期昇給の凍結」について解説します。

6 定期昇給を凍結(見送り)することができるかどうかについては、場合を分けて考える必要があります。
まず第1に、就業規則や給与規程に定期昇給についての定めがある場合です。
たとえば「毎年4月に、基本給を○○パーセント昇給させる」とか「毎年4月に、別表で定める給与を1号俸昇給させる」のような規定がある場合はどうでしょうか。
このような定めがある場合には、昇給額を具体的に計算することができるので、従業員には賃金支払請求権が発生することになります。
このような規定のもとで、定期昇給を凍結する(見送る)ことは、約束されていた賃金を受け取ることができなくなることですから、労働条件の不利益変更になることは明かです。

7 第2に、就業規則や給与規程に定期昇給についての定めがあっても、たとえば「昇給は、毎年4月に本人の年齢、勤務状況、医院に対する貢献度等を総合的に勘案してその額を決定する」とか「給与改定(昇給・降給)は、医院の業績等を考慮して原則として毎年4月に辞令を交付し、当該辞令に定める金額を5月の給与支給日から支給する」というような定めになっている場合はどうでしょうか。
このような場合には、医院は定期昇給の義務は負っているものの、まだその具体的な金額が確定しているわけではないので、定期昇給をしなかったとしても、直ちに労働条件の不利益変更になるわけではありません。

8 第3に、就業規則や給与規程がなく(それがあっても、その規定の内容に準拠せずに、異なる別の基準を示して)、長年にわたり慣例的に定期昇給を行なってきた医院が、売上の減少により定期昇給を凍結(見送り)した場合はどうなるでしょうか。
このような場合、医院と従業員の間には、毎年定期昇給が行なわれるという“黙示の合意”が成立していると考えられますから、個々の従業員の合意(同意)を得ずに定期昇給を凍結する(見送る)ことは、労働条件の不利益変更になると考えられます。
現実には、このような運用をしている歯科医院が多いと思われます。
裁判例では、9年間にわたり使用者が定期昇給額の算定方法を説明し、その説明内容にしたがって定期昇給がなされてきたという事案に対して、労使間には黙示の合意が成立しているとしたものがあります(三和機材事件・平成22年千葉地裁判決)。

次回も引続き「定期昇給の凍結」について解説します。



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