2021年12月22日水曜日

 

177-20211222

今回も引き続き「普通解雇」について解説します。

(解説)

27 この就業規則の普通解雇事由の第5は、「事業の縮小その他やむを得ない業務の都合によるとき」となっています。広義の普通解雇には、従業員の責めに帰すべき事由による解雇のほかに、従業員に責任がなく使用者の経営上の都合を理由とする解雇(整理解雇)が含まれます。整理解雇とは使用者が経営不振を打開するために人員削減(雇用の調整)を目的として行なう解雇です。

28 整理解雇は、従業員側(歯科衛生士、歯科助手、歯科受付など)に責任がないにもかかわらず行なわれる解雇なので、166回から176回までに解説した普通解雇以上に厳しい規制があります。事業の縮小などは、憲法221項によって歯科医院が自由に行なうことができますが(営業の自由)、その反面、整理解雇は従業員の雇用を保障する必要から厳しい解雇規制が行なわれます。

次回も引続き「整理解雇」について解説します。

2021年12月13日月曜日

 

176-20211213

今回も引き続き「普通解雇」について解説します。

(解説)

25 この就業規則の普通解雇事由の第4は、「協調性を欠き、他の従業員の業務遂行に悪影響を及ぼすとき」となっています。従業員は、職場で上司や同僚と協調して労務を提供することが求められています。ですから、自分勝手な行動によって業務上の混乱を招き、指導にも従わず、改善がみられない場合や、他の従業員の負担を増大させたり、業務に著しい支障を生じさせているような場合は解雇の合理的な理由となりえます。特に歯科医療の場合は、院長を中心に、同僚の歯科衛生士や歯科助手、歯科受付、歯科技工士などとのチーム医療が円滑に運営されないと、患者さんの健康に影響を及ぼすことになりますから、一人一人が協調性に配慮して行動することが求められます。

26 歯科医院の例ではありませんが、参考になる裁判例を紹介します。中途採用した従業員が、同僚らに対して日常的に高圧的、攻撃的な態度をとってトラブルを発生させ、ネットのサイトで業務と関係のないことを行なうなどして職務の遂行に重大な支障を生じさせました。何度も面談を実施し、注意、けん責処分による改善の機会を与えたにもかかわらず言動が変わらなかったことから、就業規則の解雇事由(「協調性を欠き、他の従業員の職務に支障をきたすとき」)に該当するとして解雇を有効とした裁判例(メルセデスベンツファイナンス事件)があります。

次回は、第5の「普通解雇事由」について解説します。

2021年12月8日水曜日

 

175-20211208

今回も引き続き「普通解雇」について解説します。

(解説)

22 この就業規則の普通解雇事由の第3は、「勤務態度が不良で、注意しても改善しないとき」となっています。勤務態度が不良とは、①無断欠勤、②正当な理由がない遅刻や早退、③勤務状況の不良などのいわゆる勤務懈怠(労働義務違反=債務不履行)をいいます。このような労働義務違反の程度が重大で、雇用の継続を期待しがたい程度に達している場合に解雇事由に該当することになります。

23 ①及び②のような労働義務違反が解雇理由となるのは、当該行為が反複・継続的に行なわれ、使用者の注意・指導によっても改善の見込みがない場合に限られます。しかし、当該行為が反復・継続的でなく、回数が少ない場合であっても、それが業務に重大な影響を及ぼし、使用者に損害を与えるような場合には、解雇の合理的な理由となります。歯科医院の場合には予約制をとっているので、たとえば歯科衛生士が無断欠勤や遅刻をくりかえし、院長が注意しても改善されない場合には医院の業務に支障を及ぼすといえるので、解雇の合理的な理由になるでしょう。

24 ③は、従業員が外形的には業務に従事しているようにみえるものの、勤務状況や勤務態度をみると、実質的に適正な就労とはいえない場合をいいます。従業員は、業務に必要な注意を払って誠実に労働する義務を負っていますから、外形上は労働義務を履行しているようにみえても、実質的にその内容が劣悪であれば重大な労働義務違反とされ、解雇されてもやむを得ないこととなります。業種は異なりますが、配置換えに不満をいだき、上司が指示した仕事を行なわず、勤務成績が著しく不良で、再三指導・教育しても勤務態度に改善がみられない従業員に対する懲戒解雇が有効とされた裁判例があります(日本消費者協会事件<東京地裁平成5年>)。

次回は、第4の「普通解雇事由」について解説します。

2021年11月24日水曜日

 

174-20211124

今回も引き続き「普通解雇」について解説します。

(解説)

19 この就業規則の普通解雇事由の第2は、「勤務成績又は業務能率が不良で、向上の見込みがなく、他の職務にも転換できない等、就業に適さないと認められたとき」となっています。従業員は雇用契約に基づいて適正な(雇用契約の本旨に基づいた)労務を提供する義務を負っています。したがって、勤務成績又は業務能率が不良な場合は労働義務の不完全履行とされ、解雇事由となりえます。

20 勤務成績又は業務能率が不良で、向上の見込みがないことを理由とする解雇が正当とされるのは、それが雇用契約の継続を期待しがたいほど重大な程度に達している場合に限られます。すなわち、①従業員に求められる職務の達成度が著しく低く、使用者がその業務を遂行するうえで支障をきたすなど、これ以上雇用の継続を期待できないほど重大な程度に達していることが必要です。加えて、②教育・研修等によって労働能力が改善・向上する余地があるのであれば、それらを行なうことによって雇用を継続する努力(解雇回避努力)が求められるということです。

21 歯科衛生士は患者さんの健康にかかわり、高度の職務遂行能力や成果が求められる職種です。しかし、多くの歯科医院では、歯科衛生士を中途採用する際に、その技術や接遇の能力について一定の基準を設け、それに到達しているか否かについて実際に何らかの確認のテストを行なっているわけではありません。したがって、採用後に「労働能力が劣り、向上の見込みがない」という理由で解雇が許されるのは、教育・研修等を行ない、解雇を回避する努力を相当程度尽くした場合に限られることになります。業種は異なりますが、使用者が従業員の能力不足の原因を究明し具体的な指導・改善等を講じていない一方、従業員が能力向上に取り組む姿勢を示している場合について、従業員の能力不足を理由とする解雇は、解雇権濫用により無効とした裁判例があります。

次回は、第3の「普通解雇事由」について解説します。

2021年11月17日水曜日

 

173-20211117

今回も引き続き「普通解雇」について解説します。

(解説)

16 普通解雇は、雇用契約で約束した内容の(=債務の本旨にしたがった)労務の提供ができなくなった(=債務不履行となった)ために雇用契約を終了させるものです。

17 この就業規則の普通解雇事由をひとつひとつ解説してゆきましょう。第1に「身体又は精神の傷病等により業務に耐えられないと認められたとき」は普通解雇すると規定しています。従業員の健康状態が悪化して労働能力が低下することは、解雇事由のひとつになりす。しかし、健康状態の悪化が直ちに解雇事由となるわけではなく、それが債務の本旨にしたがった労務の提供を期待できない程度に重大なものであることが必要です。そのポイントは、①現在就労している業務が本当に就労困難なのかどうか慎重に判断すること。②現在の業務が就労困難だとしても、雇用契約上就労可能な軽易業務があれば、使用者はその業務を提供することによって解雇を回避するよう努力する義務(解雇回避努力義務)を負い、それをしないで解雇した場合は合理的理由を否定されること。③従業員の能力・適性、職務内容、事業規模等を勘案して、使用者に解雇回避措置を期待することが客観的にみて困難な場合は、解雇は正当とされること。歯科医院では、②が見落としやすいので注意が必要です。

18 業務外傷病(私傷病)について休職制度がある場合、休職制度は解雇を猶予する趣旨で設けられているものなので、これを利用させずに直ちに解雇するのは解雇回避努力義務に違反し、その解雇は合理的理由を否定されます。小規模の歯科医院では、歯科衛生士に軽易業務(17の②)を提供することが容易ではなく、かといって直ちに解雇することは避けたいという場合に、この休職制度は利用価値があります。

次回は、第2の「普通解雇事由」について解説します。

2021年11月9日火曜日

 

172-20211109

今回も引き続き「普通解雇」について解説します。

(解説)

14 解雇は、従業員に債務不履行(労働義務違反やその付随義務違反)があり、かつ、それが労働契約の継続を期待しがたい程度に達している場合に肯定されます。すなわち、解雇が正当とされるためには、単に従業員に債務不履行の事実が存在するだけでは足りず、それが雇用を終了させてもやむを得ないと認められる程度に達していることが必要になります。

15  ポイントは、次の4点です。①従業員の解雇事由が重大で労働契約の履行に支障を生じさせていること。それが反復・継続的であって是正の余地がないこと。②使用者が事前に注意・警告・指導等によって是正に努めていること。③使用者が、職種転換等の措置を行い、解雇を回避する努力をしていること。④使用者は、客観的に期待可能な範囲で解雇を回避する義務を負うものであること(従業員の能力・適性・職務内容・事業規模等を勘案して、使用者に解雇を回避する措置を期待することが客観的に困難な場合は、解雇は正当とされます)。②及び③を「解雇回避努力義務」といい、④を「期待可能性の原則」といいます。この2つは、歯科医院が、従業員(歯科衛生士、歯科助手、歯科技工士、歯科受付)を解雇する場合に特に注意すべきポイントです。

 

次回から「普通解雇」事由を、ひとつひとつ具体的に解説します。

2021年11月4日木曜日

 

171-20211104

今回も引き続き「普通解雇」について解説します。

(解説)

12 「解雇権濫用法理」によって解雇が制限される場合があります。歯科医院のケースではありませんが、就業規則の解雇事由に該当する場合であっても、使用者の解雇権の行使が「客観的に合理的な理由を欠き社会通念上相当として是認することができない場合には、権利の濫用として無効になる」とした裁判例があります(「日本食塩事件」最高裁判決)。また、「普通解雇事由がある場合においても、使用者は常に解雇しうるものではなく、当該具体的な事情のもとにおいて、解雇に処することが著しく不合理であり、社会通念上相当なものとして是認することができないときは、当該解雇の意思表示は、解雇権の濫用として無効になるというべきである」と述べて解雇権濫用法理の「相当性の原則」を明らかにした裁判例もあります(「高知放送事件」最高裁判決)。

13 労働契約法16条(「解雇は、客観的に合理的な事由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして無効とする」)は、12で述べたような解雇権濫用法理を明文化したものです。歯科医院でも、歯科衛生士、歯科助手、歯科受付などの従業員を解雇することは、たとえ就業規則に記載している解雇事由に該当する場合であっても、かなり難しいと考えなければなりません。

 

次回も「普通解雇」の解説をします。

2021年10月27日水曜日

 

170-20211027

今回も引き続き「普通解雇」について解説します。

(解説)

11 「解雇事由」は就業規則の絶対的必要記載事項とされていますから、必ず就業規則に記載しなければなりません(労働基準法89条3号)。この規定が解雇を制限する機能をもつことになります。すなわち、就業規則に記載されていない事由に基づいて解雇することは、就業規則の適用を誤り、解雇権が存在しないのに解雇したものとして、その解雇は無効となります。解雇事由に該当しなくても、客観的に合理的な事由があれば解雇できるとする考え方もありますが、就業規則に根拠のないあやふやな理由で解雇したためにトラブルになった例を経験しているので、歯科医院に対しては解雇事由をしっかり記載するようにアドバイスしています。

次回も「普通解雇」の解説をします。

2021年10月13日水曜日

 

169-20211013

今回も引き続き「普通解雇」について解説します。

(解説)

9 解雇予告制度は、期間の定めのある雇用契約(有期雇用契約)を契約期間の途中で解約する場合にも適用されますが、次の①~④の臨時雇用の場合はその必要性が乏しいので、解雇予告制度は適用されません。但し、臨時雇用が常用雇用化したと考えられる場合(注:で示した場合)は、解雇予告制度が適用されるので注意が必要です。すなわち、①日々雇い入れられる従業員(注:1か月を超えて引続き使用される場合を除く)、②2か月以内の期間を定めて使用される従業員(注:その期間を超えて引続き使用される場合を除く)、③季節的業務に4か月以内の期間を定めて使用される従業員(注:その期間を超えて引続き使用される場合を除く)、④試用期間中の従業員(注:14日を超えて引続き使用されるようになった場合を除く)などです。なお、①~③の臨時雇用契約を契約期間満了で雇止めする場合、期間満了は「解雇」ではないので、解雇予告制度は適用されません。

10 歯科医院で特に注意すべきは④の場合です。歯科医院では、採用した歯科衛生士等の「技術」や「接遇」が自院が求めるレベルに相応しいかどうかをみるために試用期間を設けていますが、その試用期間の途中であっても、14日を超えて使用している場合は、解雇予告が必要であることに注意が必要です。

 

次回も「普通解雇」の解説をします。

2021年10月6日水曜日

 

168-20211006

今回も引き続き「普通解雇」について解説します。

(解説)

7 解雇予告制度についてもう少し解説を続けます。民法では、使用者は2週間の予告によって労働契約を解約できますが(民法6271項)、労働基準法は、労働者の再就職のことを考慮して、この予告期間を30日に延長し(労基法20条)、かつ、罰則をつけて(労基法1191号)これを使用者に義務づけています。つまり、解雇予告制度は、民法の規制を労働者保護のために修正した制度だということができます。

8 解雇予告制度は、解雇(使用者による労働契約の一方的解約)を対象としていますから、歯科衛生士、歯科助手、歯科受付などの従業員が辞職(一方的退職)した場合や、合意解約する場合には解雇予告制度は適用されません。このため、労働契約が解雇によって終了したのか、それとも辞職(一方的退職)・合意解約によって終了したのかが争われる場合があります。このような争いを避けるため、できるだけ文書(退職届、承諾通知書等)で雇用契約の終了原因を明らかにしておく必要があります。

 

次回も「普通解雇」の解説をします。

2021年9月29日水曜日

 

167-20210929

今回も引き続き「普通解雇」について解説します。

(解説)

4 労働基準法19条1項本文は、「使用者は、労働者が業務上負傷し、又は疾病にかかり療養のため休業する期間及びその後30日間並びに産前産後の女性が第65条の規定によって休業する期間及びその後30日間は、解雇してはならない。」と規定しています。この「療養」は、「業務上の疾病」に基づくものであることが必要であって、業務外疾病にその原因があるものは含まれません。

5 解雇には手続的な制限があります。すなわち、使用者が労働者を解雇しようとする場合は、少なくとも30日前にその予告をしなければならず、30日前に予告をしない場合は、30日分の平均賃金(「解雇予告手当」といいます)を支払わなければなりません(労働基準法20条1項)。平均賃金は、原則として、解雇日(解雇日直前の賃金締切日)以前の3か月間の賃金総額(賞与や臨時に支払われる賃金などを除きます)をその期間の総日数で除して計算します。なお、この予告日数は、平均賃金を支払った日数だけ短縮することができます(労働基準法20条2項)。

6 多くの歯科医院では、解雇予告や解雇予告手当に関する実務がルーズになっているように感じます。そこで、これを正しく運用するために具体例で考えてみたいと思います。たとえば、歯科衛生士、歯科助手、歯科受付などの従業員を10月31日に解雇する場合を例にします。10月1日に解雇予告すれば、10月2日から10月31日まで丁度30日なので、解雇予告手当を支払う必要はありません。しかし、10月10日に解雇予告した場合は、10月11日から10月31日まで21日なので、平均賃金の9日分(30日分―21日分=9日分)の解雇予告手当を支払う必要があります。日数は、解雇予告日の翌日から起算することに注意してください。

 

次回も「普通解雇」の解説をします。

2021年9月22日水曜日

 

166-20210922

今回から数回にわたり「普通解雇」について解説します。

(解説)

1 解雇とは、使用者が労働契約を将来に向けて一方的に解約することです。解雇の条文を解説する前に、歯科医院で特に注意すべき解雇のポイントについて解説します。

2 はじめに、解雇は時期的に制限されます。すなわち、①業務上の負傷・疾病による療養のため休業する期間及びその後の30日間、②産前産後の期間及びその後の30日間は解雇が制限されます(労働基準法19条1項本文)。なお、この期間中は、他に解雇事由がある場合でもそれを理由とする解雇は無効となります。

3 解雇制限期間中に「解雇予告」することは許されるかという問題があります。なかなか難しい問題です。裁判例は、肯定するものと否定するものに分かれています。労働基準法19条1項本文の趣旨は、労働者を失業の不安から解放することにあると考えられますから、私は、解雇制限期間中に「解雇予告」することはできないと考えています。

 

次回も引続き「普通解雇」の解説をします。

2021年9月15日水曜日

 

165-20210915

今回は、「普通解雇」に関する条文を作成します。

第○条(普通解雇)

1 従業員が次のいずれかに該当するときは、普通解雇する。

   身体又は精神の傷害等により業務に耐えられないと認められたとき。

   勤務成績又は業務能率が不良で向上の見込みがなく他の職務にも転換できない等、就業に適さないと認められたとき。

   勤務態度が不良で、注意しても改善しないとき。

   協調性を欠き、他の従業員の業務遂行に悪影響を及ぼすとき。

   事業の縮小その他やむを得ない業務の都合によるとき。

   その他医院の従業員(正社員)として、適格性がないとき。

2 前項の規定により従業員を解雇する場合は、少なくとも30日前に予告をするか、又は予告に代えて平均賃金の30日分の解雇予告手当を支払う。但し、次の各号のいずれかに該当する従業員を解雇する場合はこの限りではない。

①労働基準監督署長の認定を受けて、第○条○号の懲戒解雇を行う従業員

②日々雇入れる従業員(1か月を超えて引続き雇用された者を除く                                  

③2か月以内の期間を定めて使用する従業員(その期間を超えて引続き雇用された者を除く)

④試用期間中の従業員(14日を超えて引続き雇用された者を除く)

 次回は、「普通解雇」に関する条文の解説をします。

2021年8月31日火曜日

 

164-20210831

今回も引続き「退職までの職務精励義務」について解説します。

(解説)

4 退職前に相当な日数の年休を請求されると、患者さんへの対応や引継ぎなどに支障をきたす場合があります。このような場合は、本来は好ましいことではありませんが、年休の残日数の全部又は一部を買い上げる(「手当」として支給する)ことにして当該従業員の了解を得るということも考えてよいでしょう。歯科衛生士、歯科助手、歯科技工士などの退職時に未消化分の年休がある場合に、その日数に応じて手当を支給することは違法にはならないと解されています。その手当の額については、原則として歯科医院の就業規則で定めている額(①平均賃金または②所定労働時間労働した場合に支払われる通常の賃金)を支払うべきであろうと考えます。

次回は「普通解雇」の条文を作ります。

2021年8月24日火曜日

163-20210824

今回も引続き「退職までの職務精励義務」について解説します。

(解説)

2 退職が決まった歯科衛生士や歯科技工士が年次有給休暇(以下「年休」という)を請求した場合については少し考えておく必要があります。退職予定者の場合には、年休の残日数があっても退職してしまえば行使できません。行政解釈も、労働契約が終了した場合年休の権利は消滅すると解しています。このため、実際上、歯科衛生士や歯科技工士が退職しようとするとき、たとえば退職日は8月末日であるが年休の残日数が20日ある場合は、8月初旬頃まで出勤し、その後退職日まで年休の残日数を請求して継続して休むという場合が少なからずみられます。

3 退職前に残余年休の完全消化のみを目的とする年休の請求は、年休請求権の濫用であり信義則に反するため退職予定者には年休を与えないとする考え方もあります。しかし、業務多忙などの理由により、従業員の希望通りに年休を付与できない歯科医院が多いという現実に鑑みれば、たとえ残余年休の完全消化のみを目的とする年休の請求であっても、これを認めるほうが歯科医院の現状に合うとも考えられます。

次回も「退職までの職務精励義務」について解説します。

2021年8月10日火曜日

 

162-20210810

今回は、「退職までの職務精励義務」について解説します。

(解説)

1 労働契約とは、労働者が使用者の指揮命令の下で労働し、使用者がこれに対して賃金を支払うことを合意する契約です(労働契約法6条)。また、労働者及び使用者は、このような労働契約を遵守するとともに、信義に従い誠実に、権利を行使し、及び義務を履行しなければならないとされています(労働契約法3条4項)。したがって、歯科医院の場合、歯科衛生士や歯科技工士などの従業員は、退職日が決定しても実際に退職するまでは、労働契約に基づいて誠実に労務を提供しなければならないということになります。

 次回も引続き「退職までの職務精励義務」について解説します。

2021年8月3日火曜日

 「資料としてすぐに使える歯科就業規則の雛形」をご活用下さい。

 

労働条件に関する従業員の疑問や質問に対して、どのように説明したらいいものか困った経験はありませんか?

労働法の大改革である働き方関連法令が成立しました。その一部は歯科医院など中小規模の事業所に対しても、すでに2019年4月から適用されています。従来の就業規則や雇用契約を見直す必要はありませんか?

 この「雛形」は、院長が従業員の労働条件に関する疑問や質問に対して回答し、トラブルを避け、従来の就業規則や雇用契約を見直すための参考資料となることを目的に作成しました。

 従業員の採用から退職までの人事・労務管理に必要な条文を網羅し、かつ参考にしたい条項を容易に検索できるように目次をつけたので、参考資料として大いに活用していただけるものと思います。

価格(税込み) 1冊 4,800円 

 詳しくは、ホームページをご覧ください。

https://sites.google.com/view/sikakisoku

 

161-20210803

今回は、「退職までの職務精励義務」に関する条文を作成します。

第〇条(退職までの職務精励義務)

従業員は、退職が決定した後でも退職に至るまでは、職務に精励しなければならない。

 

次回は、「退職までの職務精励義務」の解説をします。

2021年7月28日水曜日

 

160-20210728

今回は、「辞職」の解説の最終回です。前回解説4の裁判例に出てくる民法の条文を記しておきます。

(解説)

【参考条文】

民法93条(心裡留保)

  意思表示は、表意者がその真意ではないことを知ってしたときであっても、そのためにその効力を妨げられない。ただし、相手方がその意思表示が表意者の真意ではないことを知り、又は知ることができたときは、その意思表示は、無効とする。

  (省略)

民法95条(錯誤)

  意思表示は、次に掲げる錯誤に基づくものであって、その錯誤が法律行為の目的及び取引上の社会通念に照らして重要なものであるときは取消すことができる。

1意思表示に対応する意思を欠く錯誤

2表意者が法律行為の基礎とした事情についてのその認識が真実に反する錯誤

  前項第2号の規定による意思表示の取消は、その事情が法律行為の基礎とされていることが表示されていたときに限り、することができる。

  錯誤が表意者の重大な過失によるものであった場合には、次に掲げる場合を除き、第1項の規定による意思表示の取消をすることができない。

1相手方が表意者に錯誤があることを知り、又は重大な過失によって知らなかったとき。

2相手方が表意者と同一の錯誤に陥っていたとき。

  (省略)

民法96条(詐欺又は強迫)

  詐欺又は強迫による意思表示は、取消すことができる。

  (省略)

  (省略)

 次回は、「退職までの職務精励義務」についての条文を作ります。

2021年7月21日水曜日

 

159-20210721

今回も引続き「辞職」について解説をします。

(解説)

5 辞職(一方的退職)の意思表示は、合意退職の場合と異なり、当該意思表示が医院(院長)に到達した時点で解約の効力を生ずるため、事後的な撤回はできません。ただし、意思表示の瑕疵による無効または取消(民法93条~96条)の主張は可能です。次のような裁判例があります。①従業員が、実際には退職するつもりではないのに、反省の意味で退職願を出し、使用者もそのことを知っていた場合、当該退職の意思表示は心裡留保(民法93条)として無効になる(昭和女子大事件)。②客観的には懲戒解雇事由がないのに、使用者がそれがあるかのように従業員に誤信させ、従業員に退職の意思表示をさせた場合は、当該退職の意思表示は錯誤(民法95条)として取消すことができる(昭和電線事件)。③使用者が、従業員を長時間一室に押しとどめて懲戒解雇をほのめかして退職を強要したというように、従業員に畏怖心を生じさせて退職の意思表示をさせたと認められる場合には、当該意思表示は強迫(民法96条)による取消ができる(石見交通事件)。以上の裁判例は、業種の異なる歯科医院にも参考になるものです。

 

次回も引続き「辞職」の解説をします。

2021年7月16日金曜日

 

158-20210716

今回も引続き「辞職」について解説します。

(解説)

4 就業規則等で「退職するには院長の承認(許可)を要する」としている歯科医院もあります。この規定が、合意退職については「院長の承諾を要する」という趣旨であれば、当然のことを定めているに過ぎないので、何ら問題はありません。しかし、辞職の場合にも院長の承認(承諾)を要するということであれば、1で述べた民法627条1項の趣旨に反することになります。したがって、たとえ院長の承認(許可)を得ずに退職しても、3と同様に、退職の届出を行った日から2週間を経過すれば退職の効果が当然に発生し雇用契約が終了することになります。さらに、歯科衛生士の確保難を背景にして、院長が従業員に対して「辞めるときは、代わりの人を見つけてくること」とか「次の人が決まってから辞めること」というような一方的な要求をしている歯科医院もあるようです。このような要求は明らかに従業員の退職の自由を保障する民法627条1項に違反するので、従業員に対して何の効力もありません。

 

次回も引続き「辞職」の解説をします。

2021年7月7日水曜日

 

157-20210707

今回も引続き「辞職」について解説します。

(解説)

3 歯科医院によっては、2週間よりも長い予告期間を設けている医院も見られます。しかし、1で述べたように、民法627条1項は退職の自由を保障する強行法規ですから、2週間よりも長い期間を設けても従業員をこれに従わせることはできません。したがって、退職の届出を行った日から2週間を経過すれば退職の効果が当然に発生し雇用契約が終了することになります。

 

次回も「辞職」の解説をします。

2021年6月29日火曜日

 

156-20210629

今回は、「辞職」について解説します。

(解説)

1 辞職とは、従業員が一方的に雇用契約を解約することで、一方的退職ともいいます。民法によれば、期間の定めのない雇用契約では、従業員は2週間の予告期間を置けば、「いつでも」雇用契約を解約することができます(民法627条1項<当事者が雇用の期間を定めなかったときは、各当事者は、いつでも解約の申入れをすることができる。この場合において、雇用は、解約の申入れの日から2週間を経過することによって終了する>)。この「いつでも」の意味は、「どのような理由があっても解約できる」ということであり、民法627条1項は、従業員に対して「退職の自由」を保障した条文(強行法規)ということになります。さらに、退職の自由は、憲法上の職業選択の自由(憲法22条1項<何人も、公共の福祉に反しない限り、・・・職業選択の自由を有する>)を支える関係にあり、退職の自由を伴わない職業選択の自由は無意味なものになります。なお、退職に関する事項は、就業規則の絶対的必要記載事項とされているので(労働基準法89条3号)、必ず就業規則に記載する必要があります。

2 歯科医院の従業員(歯科衛生士、歯科受付、歯科助手、歯科技工士)の多くは期間の定めのない雇用契約を締結していると考えられます。ですから、この就業規則では、従業員が退職の届出をしたにもかかわらず医院(院長)が退職を承諾しない場合は、雇用契約は「退職の届出を行った日から2週間を経過することによって終了する」こととしました。

 

次回も引続き「辞職」の解説をします。

2021年6月23日水曜日

 

155-20210623

今回は、「辞職」に関する条文を作成します。

第〇条(辞職)

従業員が退職の届出をしたにもかかわらず医院が退職を承諾しない場合には、雇用契約は退職の届出を行った日から2週間を経過することによって終了する。

 

次回は、「辞職」についての条文の解説をします。

2021年6月16日水曜日

 

154-20210616

今回も引続き「合意退職」について解説します。

(解説)

4 合意退職の場合、従業員はその退職の意思表示を撤回できるかどうかについて触れておく必要があります。1で述べたように、合意退職の効力は従業員(たとえば歯科衛生士)が退職の申込みを行い、医院(たとえば院長)がこれを承諾した時点で発生しますから、医院(たとえば院長)が承諾するまでの間は原則として意思表示を撤回することができることになります。問題になるのは、比較的大きな規模の歯科医院で、院長のほかに「事務長」等を置いている場合です。事務長が退職承認の最終決裁権をもっている場合は、当該事務長が承諾すれば合意退職が成立します。しかし、事務長が退職承認の最終決裁権をもっていない場合は、院長が承諾した時点で合意退職の効力が発生しますから、院長の承諾があるまでは従業員の退職の意思表示は撤回できることになります。業種は異なりますが、同旨の判例が多数あります。

 

5 退職日が決定したときは、従業員に「退職届」を提出させます。2で述べたように、退職の意思表示は、必ずしも退職願(退職届)のような文書でなくても口頭やメールでもかまいませんが、それだけに退職の意思表示をめぐってはトラブルになる可能性も高いのです。トラブルを防止するためにも、最終的に退職日が決まった段階で必ず「退職届」を提出させるようにします。

 

次回は、「辞職」に関する条文を作成します。

2021年6月9日水曜日

 

153-20210609

今回も引続き「合意退職」について解説します。

(解説)

2 この条文の第1項では、退職希望日の30日以上前に医院に退職の意思を伝えることとしています。この退職の意思表示は、必ずしも退職願(退職届)のような文書でなくても口頭やメールでもかまいません。従業員の退職希望日をそのまま医院が承諾すれば有効な合意退職となります。しかし、歯科医院では、今日、優秀な歯科衛生士を確保することが難しくなっており、加えて予約制で運営していることから、従業員の退職希望日通りの退職を承諾すると医院の運営に支障をきたし、ひいては患者さんに迷惑をかけることにもなりかねません。このような場合は、医院と従業員双方で話合いをして退職日を決めることになります。退職の意思表示が、退職希望日の30日以上前でない場合も、従業員の退職希望日をそのまま医院が承諾すればそれはそれで有効な合意退職となりますが、そうでない場合は同じように話合いによって退職日を決めることになります。

 

3 話合いによって退職日が決まらない場合は、この条文の第2項で「医院は従業員が退職希望日に退職することを承諾するものとする」としました。従業員には「退職の自由」が保証されているというのがその理由です。退職の自由については、「辞職」の条文の解説で詳しく述べることにします。歯科医院は他の業種に比べても労働移動が比較的頻繁に行われる職場です。従業員の退職を制限することは、たとえば歯科衛生士が転職することによってスキルを向上させ、あるいはより良い労働条件を獲得するチャンスを奪うことになります。したがって、話合いによって退職日が決まらない以上、従業員に退職の自由が保障されていることから、医院は従業員が退職希望日に退職することを承諾せざるを得ないのです。

 

次回も「合意退職」の解説をします。

2021年6月1日火曜日

 

152-20210601

今回は、「合意退職」について解説します。

(解説)

1 退職には、①従業員と使用者が合意によって雇用契約を解約する場合(合意退職)と、②従業員が一方的に雇用契約を解約する場合(一方的退職=辞職)があります。①の場合は、従業員(たとえば歯科衛生士)が退職の申込みを行い、医院(たとえば院長)がこれを承諾することによって雇用契約が解消されるのが一般的です。現実には、①なのか②なのか、はっきりしない場合も少なくありません。実務上は、慰留されることを断固拒否するような明確な態度や、なりふり構わず辞めるという強引な態度がみえる場合は、②として取扱っていいと思います。判例もおおむねそのように解しています。なお、退職に関する事項は、就業規則の絶対的必要記載事項とされているので(労働基準法89条3号)、必ず就業規則に記載する必要があります。

次回も引続き「合意退職」の解説をします。

2021年5月26日水曜日

 

151-20210526

今回は、「合意退職」に関する条文を作成します。

第〇条(合意退職)

1 従業員が自己の都合により退職しようとするときは、退職希望日の30日以上前に医院に対して退職の意思を伝え、医院と従業員双方合意のうえ退職日を決定する。

2 前項によって退職日が決定しない場合、医院は従業員が退職希望日に退職することを承諾するものとする。

3 前2項によって退職日が決定したときは、従業員はすみやかに退職届を提出しなければならない。

 

次回は、「合意退職」についての条文の解説をします。

2021年5月19日水曜日

 

150-20210519

 

今回も引続き「定年退職」について解説します。

(解説)

4 従業員の定年を満65歳とした場合に、60歳から65歳までの賃金をどうするかという問題があります。

従来、賃金の決定については基本的に労使の自治に委ねられており、事業主は「合理的な裁量の範囲」の賃金を提示しなければならないと考えられています。高年齢者雇用安定法の改正の趣旨は、厚生年金の支給開始年齢が引き上げられたことによって無年金・無収入となる高齢者が発生することを防止することにあります。したがって、高齢者の賃金が、年金を受給するまでの間に著しく低い水準であれば、事業主の合理的裁量の範囲を逸脱することになります。特に歯科医院では、たとえば歯科衛生士は60歳を過ぎても引続き歯科衛生士としての職務を行うのが普通だと考えられます。このような場合は、職務の軽減がほとんどないことになるので、当該歯科衛生士の賃金を引き下げることは合理的な裁量の範囲を否定される可能性が高くなるので注意が必要です。

 

次回は「合意退職」の条文を作ります。

 

2021年5月12日水曜日

 

149-20210512

 

今回も引続き「定年退職」について解説します。

(解説)

3 厚生年金法の改正により、老齢厚生年金の支給開始年齢が満60歳から満65歳に段階的に引き上げられました。このため、「60歳から65歳の高齢者の雇用」をどのようにすべきかという問題がクローズアップされるようになり、従来の主流であった60歳の定年退職は見直しを迫られることになりました。そこで、高年齢者雇用安定法が2004年と2012年に改正され、使用者に対して65歳までの雇用確保措置を講ずべき義務が課されることとなりました。その内容は、①65歳までの定年年齢の引き上げ、②継続雇用制度(現に雇用している高年齢者が希望するときは、当該高年齢者を定年後も引続き雇用する制度)、③定年の定めの廃止のいずれかの措置を講じなければならないとするものです。歯科医院では、優秀な歯科衛生士の慢性的な確保難が続いている状況を考慮して雇用確保措置の①を採用することとし、この就業規則では「従業員の定年は満65歳とし、誕生日の属する月の給与締切日をもって定年退職する」こととしました。

 

次回も引続き「定年退職」の解説をします。

2021年5月6日木曜日

 

148-20210506

 

今回は、「定年退職」について解説します。

(解説)

1 定年退職とは、従業員が一定の年齢に到達したときに、労使双方の意思表示を必要とせず当然に雇用契約を終了させる制度です。退職に関する事項は就業規則の絶対的必要記載事項とされていますから(労働基準法89条3号)、必ず就業規則に規定しなければなりません。定年退職の制度は、定年年齢に到達するまでの雇用を保障する機能(雇用保障機能)と定年年齢に到達することによって雇用関係を終了させる機能(雇用終了機能)を兼ね備えており、労使双方にとって合理的な制度だとして支持され定着してきました。

 

2 定年年齢を何歳にするかについて、従来、労使の自治に委ねられてきましたが、高齢社会の到来に伴って「高年齢者雇用安定法」が制定され、定年年齢を60歳以上とすることが義務になりました(同法8条「事業主がその雇用する労働者の定年の定めをする場合には、当該定年は、60歳を下回ることができない」)。この高年齢者雇用安定法8条は強行規定なので、歯科医院の就業規則に歯科衛生士の定年年齢を60歳未満と定めている場合には、その就業規則の規定は高年齢者雇用安定法8条違反として無効になり、最初から定年の定めがなかったことになります。

 

次回も引続き「定年退職」の解説をします。

2021年4月28日水曜日

 

147-20210428

 

今回は、「定年退職」に関する条文を作成します。

 

第〇条(定年退職)

従業員の定年は満65歳とし、誕生日の属する月の給与締切日をもって定年退職する。

 

次回は、「定年退職」についての条文の解説をします。

2021年4月21日水曜日

 

146-20210421

 

今回も引続き「当然退職」について解説します。

(解説)

3 従業員が事前の連絡なしに突然出勤しなくなり、スマホに電話しても本人が出ることはなく、医院に連絡するようにメッセージを残しても何の反応もない状況が長期にわたる場合があります。多くの歯科医院は人員に余裕があるわけではないので、このような行方不明の状況が続くと業務に甚だしい支障を来すことになります。このような場合に、不就労を理由として解雇ができますが、そのためには使用者の解雇の意思表示が当該従業員に到達することが必要です。しかし、行方不明の場合にはそれが不可能ですから、民法98条の「公示送達」の手続をとらなければなりません。公示送達とは、民事訴訟法の規定に従って裁判所の掲示場に掲示し、かつ、その掲示があったことを官報に掲載することによって使用者の解雇の意思表示が当該従業員に到達したとみなす制度です。

 

4 しかし、この公示送達は裁判所を用いる面倒な手続なので現実的ではありません。したがって、この就業規則では「行方不明となり50日以上医院に連絡しないで欠勤したとき」及び「従業員の所在が判明している場合であっても、医院からの連絡を避けて50日以上無断で欠勤する場合」を当然退職事由とし、欠勤開始日に退職の意思表示があったものとして取扱うことにしました。

 

5 行方不明等の期間を「50日」としたのは、民法627条2項を参考にしています。その内容は、月給制の歯科医院で、①使用者が、給与計算期間の前半に雇用契約を解約する意思表示をした場合、その計算期間の終了日をもって雇用契約が終了し、②使用者が、給与計算期間の後半に雇用契約を解約する意思表示をした場合、次の計算期間の終了日をもって雇用契約が終了するというものです。たとえば、給与計算期間が毎月1日から末日の月給制の歯科医院で、①使用者が7月1日に雇用契約を解約する意思表示をした場合、雇用契約は7月末日に終了し(この場合の最大日数は31日)、②使用者が7月16日に雇用契約を解約する意思表示をした場合、雇用契約は8月末日に終了します(この場合の最大日数は47日)。行方不明等の期間を設定するにあたり、従業員に最大限有利になるように考えると、50日(47日を上回る日数)に設定する必要があると思われます。

 

次回は「定年退職」の条文を作ります。

2021年4月14日水曜日

 

145-20210414

今回は、「当然退職」について解説します。

(解説)

1 雇用契約は、解雇以外にもさまざまな原因によって終了します。歯科医院の就業規則に規定しておく必要があるものは、①一定の事由が発生すると、従業員又は使用者が特別の意思表示をしなくても当然に雇用契約が終了するもの(当然退職)、②従業員が一定の年齢に達すると、従業員又は使用者が特段の意思表示をすることなく当然に雇用契約が終了する制度(定年退職)、③従業員と使用者の意思表示の合致(合意)によって雇用契約を終了させるもの(合意退職)、④従業員からの一方的な意思表示によって雇用契約を終了させるもの(辞職)などです。これらの退職に関する事項は、就業規則の絶対的必要記載事項とされていますから(労働基準法89条3号)、必ず就業規則に記載しなければなりません。

2 当然退職とは、前項で述べたように、一定の事由が発生した場合は従業員の意思表示を必要とせずに当然に雇用契約が終了することをいいます。①従業員が死亡した場合は、雇用契約当事者の一方が消滅することですから雇用契約は当然に消滅します。②休職期間が満了すると当然に退職となることは、この就業規則の「復職」に関する条文でも定めています(「休職期間が満了してもなお就業が困難な場合は、休職期間の満了をもって退職とする」と規定している。第25回復職の条文参照)。③法人である歯科医院の場合、従業員が取締役又は執行役員に就任した場合は、雇用契約を終了すると規定している医院が多いようです。ただし、従業員と役員を兼務している場合(「兼務役員」といいます)には雇用契約は終了しません。

次回も引続き「当然退職」の解説をします。

2021年4月7日水曜日

 

144-20210407

 

今回は、「自然退職」に関する条文を作成します。

 

第〇条(自然退職)

1 従業員が次の各号のひとつに該当するときはその日を退職の日とし、その翌日に従業員としての身分を失う。

   死亡したとき

   休職期間が満了したとき

   役員(兼務役員を除く)に就任したとき

2 従業員が行方不明となり50日以上医院に連絡しないで欠勤したときは、欠勤開始日に退職の意思表示があったものとして取り扱う。従業員の所在が判明している場合であっても、医院からの連絡を避けて50日以上無断で欠勤する場合も同様とする。

 

次回は、「自然退職」についての条文の解説をします。

2021年4月1日木曜日

 

143-20210401

 

今回も引続き、「生理日の休暇」について解説します。

(解説)

5 年次有給休暇の発生には出勤率80パーセント以上が必要とされていますし(労働基準法39条1項)、精皆勤手当や昇給・賞与の支給に、「出勤率○パーセント以上の者をその対象とする」というような定めをしている場合があります。このような場合に、生理休暇を欠勤扱いすることは労働基準法68条違反になるのかという問題があります。これについては、①生理休暇中の賃金支払義務や欠勤の取扱いは労使の自治(労働契約、労働協約又は就業規則で定める内容)に委ねられているという側面と、②労使の自治に委ねられているといっても、それを無制限に認めると女性従業員(歯科衛生士、歯科助手、歯科技工士、歯科受付など)が生理休暇を請求する権利の行使を抑制することになるという2つの側面から考える必要があります。

 

6 上記の問題について判例は、不利益取扱いの趣旨・目的、労働者が被る経済的不利益の内容・程度、権利行使に対する事実上の抑制力を総合して、それらの制度(「出勤率○パーセント以上の者をその対象とする」というような定め)が労働者の権利行使を抑制し、法の趣旨を失わせる程度のものか否かを検討し、それが認められれば公序(民法90条)に違反して無効になると判断しています(最高裁・平成元年12.14判決)。行政通達も、女性従業員(歯科衛生士、歯科助手、歯科技工士、歯科受付など)に著しい不利益を課すことは法の趣旨に照らして好ましくないとしています。(注)民法90条「公の秩序又は善良の風俗に反する法律行為は、無効とする」。

 

7 たとえば、「賞与は出勤率90パーセント以上の従業員に対して支給する。生理休暇を欠勤扱いとする。出勤率90パーセント未満の場合には賞与を全額不支給とする」というような給与(賞与)規定の場合はどうでしょぅか?このような規定内容は、女性従業員(歯科衛生士、歯科助手、歯科技工士、歯科受付など)が生理休暇を請求する権利の行使を強く抑制することとなり、かつ女性従業員にとって著しい不利益となると考えられますから、このような規定は公序違反により無効となると思います。

 

次回は「当然退職」の条文を作ります。

2021年3月24日水曜日

 

142-20210324

 

今回も引続き、「生理日の休暇」について解説します。

(解説)

3 前回述べたように、生理に伴う苦痛の程度や就労の困難さは人によって個人差があるので、休暇を請求できる日数について「生理休暇は○日に限る」というような制限を設けることはできません。ただし、「生理休暇は○日間を有給とする」というような定めは、有給日数以上の休暇を与えることが明らかである場合はかまわないとされています(行政通達)。また、例えば歯科衛生士が生理休暇を1日単位でなく半日単位や時間単位で請求した場合は、その範囲で取得させればいいと思います(行政通達も同趣旨)。

 

4 生理休暇中の賃金については労働法令に規定がありません。行政通達は「生理日の就業が著しく困難な女性が休暇を請求した場合、その間の賃金は労働契約、労働協約又は就業規則で定めるところによって支給してもしなくても差し支えない」としています。この就業規則では、歯科医院の従業員の生理休暇中の賃金は無給としました(第2項)。

 

次回も引続き、「生理日の休暇」について解説します。

2021年3月17日水曜日

 

141-20210317

 

今回は、「生理日の休暇」について解説します。

(解説)

1 労働基準法68条は、「使用者は、生理日の就業が著しく困難な女性が休暇を請求したときは、その者を生理日に就業させてはならない」と規定しています。この規定の趣旨は、生理日に腹痛、腰痛、頭痛などの苦痛により就業が著しく困難な女性従業員(歯科衛生士、歯科助手、歯科技工士、歯科受付)に対して、本人の請求により休暇取得を認めるものです。したがって、休暇を取得できるは、「生理日の就業が著しく困難な女性」が、「請求」した場合に限られます。

2 「生理日の就業が著しく困難」であることの判断の基準が問題になりますが、生理に伴う前項のような苦痛は、女性従業員に関わるプライバシーの問題であることに加えて、その苦痛の感じ方には個人差があることから、結局は当該女性従業員の主観的判断を尊重せざるを得ないと思われます。したがって、特別の証明がなくても女性従業員の請求があったときは原則として休暇を与えることとし、特に証明が必要な場合であっても同僚女性従業員の証言程度の簡単な証明で足りると考えます(行政通達も同趣旨)。これは、歯科医院でも適切に対応する必要があります。

 

次回も「生理日の休暇」の解説をします。

2021年3月10日水曜日

 

140-20210310

 

今回は、「生理日の休暇」に関する条文を作成します。

第〇条(生理日の休暇)

1 医院は、生理日の就業が著しく困難な女性従業員から請求があったときは、必要な期間休暇を与える。

2 前項の休暇は、無給とする。

 

次回は、「生理日の休暇」について解説をします。

2021年3月3日水曜日

 

139-20210303

 

今回は、「軽易業務への転換」について解説します。

(解説)

1 労働基準法は、「使用者は、妊娠中の女性が請求した場合においては、他の軽易な業務に転換させなければならない」と規定しています(65条3項)。妊娠中の女性従業員が請求した場合には、使用者は原則として当該女性従業員が請求した業務に転換させる必要があります(行政通達)。ただし、新たに軽易な業務を創設することまで要求するものではなく、また、業務内容の転換のほか労働時間帯の変更なども含むと解されています(行政通達)。労働基準法は、「軽易な業務」とはどのような業務かについて何も規定してはいませんが、やはり当該女性従業員の判断を尊重して柔軟に対応する必要があるでしょう。歯科医院の場合、立ち仕事が妊婦の負担になるので、疲れた時にいつでも掛けられるように、椅子を用意することをお薦めしています。

 

2 歯科衛生士、歯科助手、歯科技工士、歯科受付などの従事する業務を軽易な業務に転換した場合、従前の業務を前提として定められていた賃金を変更する必要が生じる場合があり得ます。このため、この就業規則では「転換後の業務に応じて」賃金を変更することができるようにしました。

 

次回は「生理日の休暇」の条文を作ります。

2021年2月24日水曜日

 

令和3年4月から36協定届の様式が変更されるので、歯科医院の場合についてその解説をします。

1 労働基準法36条は、法定労働時間を超えて労働させたり(時間外労働)、法定休日に労働させたりする(休日労働)ための必要な手続を定めています。したがって、本条所定の「書面による協定」は「36(さぶろく)協定」と呼ばれています。その通常の届出様式は「様式第9号」として整備されています。令和3年4月から当該届出様式が変更され、36協定の適正な締結に向けて「労働者代表」についてのチェックボックスが新設されました。

 

2 36協定を締結する際に、事業場に労働者の過半数で組織する労働組合がない場合は、労働者の過半数を代表する者(過半数代表者)を選出し、その者を労働者側当事者とする必要があります。労働者とは、歯科医院の場合、当該医院に使用されている全ての従業員(歯科衛生士、歯科助手、歯科技工士、歯科受付など)のことで、パートタイマーのような臨時労働者も含まれます(行政解釈)。

 

3 過半数代表者は従業員全員にかかわる重要な労使協定の内容について判断をしなければなりません。したがって、管理監督者(部長、課長、係長など労働条件の決定その他労務管理について経営者と一体的な立場にある者)に該当する可能性のある者は、過半数代表者として選出すべきではありません。歯科医院では、パートを含む全従業員のなかで院長と共に労務管理に携わっているような者(例えば、主任、事務長等)は、過半数代表者の選出に当たっては避けた方がいいと思われます。

 

4 過半数代表の選出手続は、投票、挙手など労働者の過半数がその人を過半数代表者とすることを支持していることが明確になるような民主的方法がとられていることが必要です。歯科医院では、院長が特定の従業員を指名することが少なからず行なわれているようですが、使用者の意向によって過半数代表者が選出された場合、その36協定は無効となります。そこで、歯科医院では、主任、事務長等を除く全従業員(パートを含む)で互選によって選出するようにお薦めしております。

 

138-20210224

 

今回は、「軽易業務への転換」に関する条文を作成します。

 

第〇条(軽易業務への転換)

1 医院は、妊娠中の女性従業員が請求した場合には、他の軽易な業務に転換することとする。但し、軽易な業務が存在する場合に限る。

2 前項により業務を転換したときは、転換後の業務に応じて賃金を変更する場合がある。

 

次回は、「軽易業務への転換」について解説をします。

2021年2月17日水曜日

 

 

137-20210216

 

今回も引続き「産前・産後休業」について解説します。

 

(解説)

4 労働基準法65条1項の産前休業は、女性労働者の請求を要件として付与されます。この就業規則の第1項も「女性従業員から請求があったときは」と規定していますから、6週間以内に出産する予定の女性従業員から請求がない場合は就業させてもいいことになります。しかし、歯科医院の女性従業員の業務、特に歯科衛生士の業務は終日立って行なう作業が多いので、妊婦にとっては身体的な負担が大きいといえます。ですから、院長は、当該女性従業員から請求がない場合でも、念のため、母性保護及び労務管理の観点から、産前休業の請求をするかどうかの確認をすることが必要になると思われます。

 

5 労働基準法65条2項の産後休業のうち最初の6週間は強制的な休業ですが、6週間を経過した後は、女性従業員が請求し、医師が支障がないと認めた業務に就かせることは差し支えないとされています。出産後の妊婦及び新生児の健康状態については個人差が大きいため、この就業規則の第2項で「医師が支障なしと認めた業務に就かせることができる」ことにしました。

 

6 労働基準法65条は、産前産後期間中の賃金保障について規定していないので、この期間中に賃金を支給するかどうかは就業規則に委ねられています。この就業規則の第3項は、産前産後休業期間中の賃金について無給であるとしました。しかし、産前産後休業期間に収入がなくなることは、従業員の生活に著しい支障をきたすことになります。ですから、歯科医院では、①健康保険法の出産手当金や、②雇用保険法の育児休業給付金を申請できるように、社会保険及び雇用保険の制度を整えておく必要があります。

 

次回は「軽易業務への転換」についての条文を作ります。

2021年2月10日水曜日

 

136-20210210

 

今回は「産前・産後休業」について解説します。

 (解説)

1 「出産」とは、妊娠4か月(1か月を28日として、4か月目の初日から計算開始するため、85日<28×31>)以上の分娩を意味します。これに該当すれば早産、流産、死産の場合も「出産」となりますから、いずれの場合も産前・産後休業の対象になります。

 2 産前6週間、産後8週間の計算は間違いやすいので注意が必要です。産前6週間は分娩予定日を基準として計算し、産後8週間は実際の分娩日の翌日から起算します(民法140条)。たとえば、歯科医院の従業員Aさんの分娩予定日が10月13日、実際の分娩日が10月18日であったとします。前述の計算方法によれば、産前休業は9月2日から10月13日まで(42日間)、産後休業は10月19日から12月13日まで(56日間)となります。ちなみに、出産日当日は産前6週間に含まれるとされているので(行政通達)、10月14日から10月18日までの5日間も産前休業になります。

 3 労働基準法は、「使用者は、6週間(多胎妊娠の場合にあっては、14週間)以内に出産する予定の女性が休業を請求した場合においては、その者を就業させてはならない。」(65条1項)、「使用者は、産後8週間を経過しない女性を就業させてはならない。ただし、産後6週間を経過した女性が請求した場合において、その者について医師が支障がないと認めた業務に就かせることは、差し支えない。」(65条2項)と規定しています。休暇に関する事項は、就業規則の絶対的必要記載事項とされているので(労働基準法89条1号)、この就業規則の1項及び2項は、前述の労働基準法65条に基づいて、女性従業員に産前休業及び産後休業を与えることを規定したものです。

 次回も引続き「産前・産後休業」の解説をします。

2021年2月3日水曜日

 

135-20210203

今回は、「産前・産後休業」についての条文を作成します。

第〇条(産前・産後休業)

1 医院は、6週間(多胎妊娠の場合は14週間)以内に出産する予定の女性従業員から請求があったときは、産前休業を与える。

2 産後8週間を経過しない女性従業員は就業させない。但し、産後6週間を経過した女性従業員が請求した場合においては、その者について医師が支障なしと認めた業務に就かせることができる。

3 前2項の休業期間については、無給とする。

次回は、「産前・産後休業」についての条文の解説をします。

2021年1月27日水曜日

 

134-20210127

 今回は、「育児時間」について解説します。

 (解説)

1 育児時間は、労働基準法67条で「生後満1歳に達しない生児を育てる女性は、第34条の休憩時間のほか、1日に2回各々少なくとも30分、その生児を育てるための時間を請求することができる」(1項)、「使用者は、前項の育児時間中は、その女性を使用してはならない」(2項)と規定されています。この育児時間は、労働基準法34条の休憩時間と同様に、就業規則の絶対的必要記載事項とされていますから(労働基準法89条1号)、必ず就業規則に規定しなければなりません。

 2 労働基準法34条の休憩時間は労働時間の途中で与えなければなりませんが、通達により、この育児時間は勤務時間の初めと終わりに与えることができ、1日1回60分の付与でもかまわないとされています。歯科医院は女性従業員がほとんどですから、院長は、従業員からの請求を待たずに始業時刻を遅くしたり、終業時刻を早めたりするなど、柔軟な対応が求められます。

 3 育児時間の賃金を有給とするか無給とするかは使用者の判断に委ねられています。この就業規則では、育児時間の賃金は無給としました。

 

次回は「産前・産後休業」の条文を作ります。

2021年1月20日水曜日

 

133-20210120

 

今回は、「育児時間」についての条文を作ります。

 

第○条(育児時間)

1 満1歳に達しない子を養育する女性従業員から請求があったときは、休憩時間のほか、1日について2回それぞれ30分間の育児時間を与える。

2 前項の育児時間は無給とする。

 

次回は、「育児時間」の条文の解説をします。

2021年1月8日金曜日

 

20210108

今回も引続き、「妊産婦従業員の労働時間」の解説をします。 

(解説)

3 労働基準法は、妊産婦から請求があった場合は、就業規則等で①1か月単位の変形労働時間制、②1年単位の変形労働時間制、又は③1週間単位の変形労働時間制を採用していた場合でも、140時間、18時間を超えて労働させてはならないと規定しています(労働基準法661項)。 

4 この就業規則では上記の3つの変形労働時間制のいずれも採用してはいませんが、歯科医院によっては、①又は②の変形労働時間制を採用している医院も見受けられます。        また、将来、変形労働時間制が必要になったときに備えて、就業規則に「医院は業務の遂行上必要があるときは、労使協定を締結し毎月○日を起算日とする1か月単位の変形労働時間制を採用することができる」というような内容の規定を設けている歯科医院もあります。    いずれの場合でも、3項によって妊産婦である女性従業員に対する変形労働時間制の適用は制限されることになります。 

次回は、「育児時間」に関する規定を作ります。