2022年2月9日水曜日

 

181-20220209

今回は普通解雇の手続について解説します。

(解説)

35 普通解雇手続の規定内容は第165回を参照してください。第167回から第169回で、その規定内容を詳しく解説していますので参照してください。

36 客観的に合理的な理由がなくて解雇が無効になった場合、従業員の賃金はどうなるのでしょう?民法は、「債権者の責めに帰すべき事由によって債務を履行することができなくなったときは、債権者は、反対給付の履行を拒むことができない」と定めています(民法536条2項)。この場合の債権者とは使用者のことです。歯科医院で歯科衛生士、歯科助手、歯科受付などの従業員を解雇した場合を考えてみましょう。解雇が裁判で無効と判断された場合には、これまでどおりの雇用契約が続いていることになります。しかし、解雇期間中(使用者が従業員の就労を拒否している状態)では、従業員は現実に働くことができないので、労働義務(債務)を履行することができない状態(履行不能の状態)にあります。この履行不能は、合理的な理由もないのに解雇した医院にその責任があるといえますから、従業員は賃金(反対給付)を請求する権利があることになります。このように賃金の面からも、解雇はよほど慎重でなければなりません。

次回は「退職又は解雇時の義務」について解説します。

2022年1月26日水曜日

 

180-20220126

今回も引き続き「整理解雇」について解説します。

(解説)

33 被解雇者選定の公正性については、歯科医院の場合、ひとりで子どもを育てている歯科衛生士が少なからずいることから、解雇による経済的打撃が大きな従業員は特に慎重に選定すべきでしょう。

34 説明・協議義務について、最近の裁判例はこの要素を重視する傾向にあります。その対象は解雇の対象となる従業員です。説明・協議の場をもたない場合はもとより、客観的な経営資料を十分提示せず抽象的な説明をするに過ぎない場合や、使用者が協議・交渉を一方的に打ち切って整理解雇を強行したような場合は、説明・協議義務違反となります。

次回は「普通解雇」の手続について解説します。

2022年1月19日水曜日

 

179-20220119

今回も引き続き「整理解雇」について解説します。

(解説)

31 人員削減の必要性について、最近の裁判例は、人員削減をしなければ倒産必至の状況であることまでは要求せず、「高度の経営上の必要性」があれば足りるとして、使用者の経営判断を尊重する傾向にあります。歯科医院の場合、歯科衛生士等の従業員を新規募集するなど人員削減と矛盾するようなことを行なわない限り、人員削減の必要性が肯定されるものと考えます。

32 解雇回避努力義務については、使用者は、従業員にとって解雇よりも打撃の少ない措置(歯科医院の場合、新規採用の停止、昇給の停止、賞与の減額、残業の削減、有期契約従業員の雇止めなど)を講じる義務があるとされています。コロナ禍を理由とする有期契約従業員の整理解雇について、従業員を休業させれば6割の休業手当の支給で済み、しかも「雇用調整助成金」を申請すれば支給した休業手当の大半が補填されるのに、これを申請しなかった場合は、解雇回避努力義務を尽くしたとはいえないとした裁判例があります(仙台地裁決定・令和2.8.21)。

次回も「整理解雇」について解説します。

2022年1月12日水曜日

 

178-20220112

今回も引き続き「整理解雇」について解説します。

(解説)

29 整理解雇は、①経営困難を理由とする「危機回避型」と、②余剰人員を削減する「合理化型」に分けられます。複数の労働者を解雇するようなイメージがありますが、使用者の経営上の都合を理由とする人員削減であれば、たとえ1名の解雇であっても整理解雇として取扱うべきだとされています。したがって、歯科医院が経営上の都合で歯科衛生士、歯科助手、歯科受付等を一人でも解雇する場合は整理解雇となり、以下に述べる厳しい解雇規制があります。

30 整理解雇が解雇権の濫用にならないかどうかについて裁判例は、整理解雇の4要素(①人員削減の必要性があること、②使用者が整理解雇回避のための努力を尽くしたこと、③被解雇者の選定基準及び選定が公正であること、④労働者に対して必要な説明や協議を行なったこと)を設定し、これらの4要素を含む諸事情を総合考慮して整理解雇の有効性を判断しています。

次回も「整理解雇」について解説します。

2021年12月22日水曜日

 

177-20211222

今回も引き続き「普通解雇」について解説します。

(解説)

27 この就業規則の普通解雇事由の第5は、「事業の縮小その他やむを得ない業務の都合によるとき」となっています。広義の普通解雇には、従業員の責めに帰すべき事由による解雇のほかに、従業員に責任がなく使用者の経営上の都合を理由とする解雇(整理解雇)が含まれます。整理解雇とは使用者が経営不振を打開するために人員削減(雇用の調整)を目的として行なう解雇です。

28 整理解雇は、従業員側(歯科衛生士、歯科助手、歯科受付など)に責任がないにもかかわらず行なわれる解雇なので、166回から176回までに解説した普通解雇以上に厳しい規制があります。事業の縮小などは、憲法22条1項によって歯科医院が自由に行なうことができますが(営業の自由)、その反面、整理解雇は従業員の雇用を保障する必要から厳しい解雇規制が行なわれます。

次回も引続き「整理解雇」について解説します。

2021年12月13日月曜日

 

176-20211213

今回も引き続き「普通解雇」について解説します。

(解説)

25 この就業規則の普通解雇事由の第4は、「協調性を欠き、他の従業員の業務遂行に悪影響を及ぼすとき」となっています。従業員は、職場で上司や同僚と協調して労務を提供することが求められています。ですから、自分勝手な行動によって業務上の混乱を招き、指導にも従わず、改善がみられない場合や、他の従業員の負担を増大させたり、業務に著しい支障を生じさせているような場合は解雇の合理的な理由となりえます。特に歯科医療の場合は、院長を中心に、同僚の歯科衛生士や歯科助手、歯科受付、歯科技工士などとのチーム医療が円滑に運営されないと、患者さんの健康に影響を及ぼすことになりますから、一人一人が協調性に配慮して行動することが求められます。

26 歯科医院の例ではありませんが、参考になる裁判例を紹介します。中途採用した従業員が、同僚らに対して日常的に高圧的、攻撃的な態度をとってトラブルを発生させ、ネットのサイトで業務と関係のないことを行なうなどして職務の遂行に重大な支障を生じさせました。何度も面談を実施し、注意、けん責処分による改善の機会を与えたにもかかわらず言動が変わらなかったことから、就業規則の解雇事由(「協調性を欠き、他の従業員の職務に支障をきたすとき」)に該当するとして解雇を有効とした裁判例(メルセデスベンツファイナンス事件)があります。

次回は、第5の「普通解雇事由」について解説します。

2021年12月8日水曜日

 

175-20211208

今回も引き続き「普通解雇」について解説します。

(解説)

22 この就業規則の普通解雇事由の第3は、「勤務態度が不良で、注意しても改善しないとき」となっています。勤務態度が不良とは、①無断欠勤、②正当な理由がない遅刻や早退、③勤務状況の不良などのいわゆる勤務懈怠(労働義務違反=債務不履行)をいいます。このような労働義務違反の程度が重大で、雇用の継続を期待しがたい程度に達している場合に解雇事由に該当することになります。

23 ①及び②のような労働義務違反が解雇理由となるのは、当該行為が反複・継続的に行なわれ、使用者の注意・指導によっても改善の見込みがない場合に限られます。しかし、当該行為が反復・継続的でなく、回数が少ない場合であっても、それが業務に重大な影響を及ぼし、使用者に損害を与えるような場合には、解雇の合理的な理由となります。歯科医院の場合には予約制をとっているので、たとえば歯科衛生士が無断欠勤や遅刻をくりかえし、院長が注意しても改善されない場合には医院の業務に支障を及ぼすといえるので、解雇の合理的な理由になるでしょう。

24 ③は、従業員が外形的には業務に従事しているようにみえるものの、勤務状況や勤務態度をみると、実質的に適正な就労とはいえない場合をいいます。従業員は、業務に必要な注意を払って誠実に労働する義務を負っていますから、外形上は労働義務を履行しているようにみえても、実質的にその内容が劣悪であれば重大な労働義務違反とされ、解雇されてもやむを得ないこととなります。業種は異なりますが、配置換えに不満をいだき、上司が指示した仕事を行なわず、勤務成績が著しく不良で、再三指導・教育しても勤務態度に改善がみられない従業員に対する懲戒解雇が有効とされた裁判例があります(日本消費者協会事件<東京地裁平成5年>)。

次回は、第4の「普通解雇事由」について解説します。