2021年11月24日水曜日

 

174-20211124

今回も引き続き「普通解雇」について解説します。

(解説)

19 この就業規則の普通解雇事由の第2は、「勤務成績又は業務能率が不良で、向上の見込みがなく、他の職務にも転換できない等、就業に適さないと認められたとき」となっています。従業員は雇用契約に基づいて適正な(雇用契約の本旨に基づいた)労務を提供する義務を負っています。したがって、勤務成績又は業務能率が不良な場合は労働義務の不完全履行とされ、解雇事由となりえます。

20 勤務成績又は業務能率が不良で、向上の見込みがないことを理由とする解雇が正当とされるのは、それが雇用契約の継続を期待しがたいほど重大な程度に達している場合に限られます。すなわち、①従業員に求められる職務の達成度が著しく低く、使用者がその業務を遂行するうえで支障をきたすなど、これ以上雇用の継続を期待できないほど重大な程度に達していることが必要です。加えて、②教育・研修等によって労働能力が改善・向上する余地があるのであれば、それらを行なうことによって雇用を継続する努力(解雇回避努力)が求められるということです。

21 歯科衛生士は患者さんの健康にかかわり、高度の職務遂行能力や成果が求められる職種です。しかし、多くの歯科医院では、歯科衛生士を中途採用する際に、その技術や接遇の能力について一定の基準を設け、それに到達しているか否かについて実際に何らかの確認のテストを行なっているわけではありません。したがって、採用後に「労働能力が劣り、向上の見込みがない」という理由で解雇が許されるのは、教育・研修等を行ない、解雇を回避する努力を相当程度尽くした場合に限られることになります。業種は異なりますが、使用者が従業員の能力不足の原因を究明し具体的な指導・改善等を講じていない一方、従業員が能力向上に取り組む姿勢を示している場合について、従業員の能力不足を理由とする解雇は、解雇権濫用により無効とした裁判例があります。

次回は、第3の「普通解雇事由」について解説します。

2021年11月17日水曜日

 

173-20211117

今回も引き続き「普通解雇」について解説します。

(解説)

16 普通解雇は、雇用契約で約束した内容の(=債務の本旨にしたがった)労務の提供ができなくなった(=債務不履行となった)ために雇用契約を終了させるものです。

17 この就業規則の普通解雇事由をひとつひとつ解説してゆきましょう。第1に「身体又は精神の傷病等により業務に耐えられないと認められたとき」は普通解雇すると規定しています。従業員の健康状態が悪化して労働能力が低下することは、解雇事由のひとつになりす。しかし、健康状態の悪化が直ちに解雇事由となるわけではなく、それが債務の本旨にしたがった労務の提供を期待できない程度に重大なものであることが必要です。そのポイントは、①現在就労している業務が本当に就労困難なのかどうか慎重に判断すること。②現在の業務が就労困難だとしても、雇用契約上就労可能な軽易業務があれば、使用者はその業務を提供することによって解雇を回避するよう努力する義務(解雇回避努力義務)を負い、それをしないで解雇した場合は合理的理由を否定されること。③従業員の能力・適性、職務内容、事業規模等を勘案して、使用者に解雇回避措置を期待することが客観的にみて困難な場合は、解雇は正当とされること。歯科医院では、②が見落としやすいので注意が必要です。

18 業務外傷病(私傷病)について休職制度がある場合、休職制度は解雇を猶予する趣旨で設けられているものなので、これを利用させずに直ちに解雇するのは解雇回避努力義務に違反し、その解雇は合理的理由を否定されます。小規模の歯科医院では、歯科衛生士に軽易業務(17の②)を提供することが容易ではなく、かといって直ちに解雇することは避けたいという場合に、この休職制度は利用価値があります。

次回は、第2の「普通解雇事由」について解説します。

2021年11月9日火曜日

 

172-20211109

今回も引き続き「普通解雇」について解説します。

(解説)

14 解雇は、従業員に債務不履行(労働義務違反やその付随義務違反)があり、かつ、それが労働契約の継続を期待しがたい程度に達している場合に肯定されます。すなわち、解雇が正当とされるためには、単に従業員に債務不履行の事実が存在するだけでは足りず、それが雇用を終了させてもやむを得ないと認められる程度に達していることが必要になります。

15  ポイントは、次の4点です。①従業員の解雇事由が重大で労働契約の履行に支障を生じさせていること。それが反復・継続的であって是正の余地がないこと。②使用者が事前に注意・警告・指導等によって是正に努めていること。③使用者が、職種転換等の措置を行い、解雇を回避する努力をしていること。④使用者は、客観的に期待可能な範囲で解雇を回避する義務を負うものであること(従業員の能力・適性・職務内容・事業規模等を勘案して、使用者に解雇を回避する措置を期待することが客観的に困難な場合は、解雇は正当とされます)。②及び③を「解雇回避努力義務」といい、④を「期待可能性の原則」といいます。この2つは、歯科医院が、従業員(歯科衛生士、歯科助手、歯科技工士、歯科受付)を解雇する場合に特に注意すべきポイントです。

 

次回から「普通解雇」事由を、ひとつひとつ具体的に解説します。

2021年11月4日木曜日

 

171-20211104

今回も引き続き「普通解雇」について解説します。

(解説)

12 「解雇権濫用法理」によって解雇が制限される場合があります。歯科医院のケースではありませんが、就業規則の解雇事由に該当する場合であっても、使用者の解雇権の行使が「客観的に合理的な理由を欠き社会通念上相当として是認することができない場合には、権利の濫用として無効になる」とした裁判例があります(「日本食塩事件」最高裁判決)。また、「普通解雇事由がある場合においても、使用者は常に解雇しうるものではなく、当該具体的な事情のもとにおいて、解雇に処することが著しく不合理であり、社会通念上相当なものとして是認することができないときは、当該解雇の意思表示は、解雇権の濫用として無効になるというべきである」と述べて解雇権濫用法理の「相当性の原則」を明らかにした裁判例もあります(「高知放送事件」最高裁判決)。

13 労働契約法16条(「解雇は、客観的に合理的な事由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして無効とする」)は、12で述べたような解雇権濫用法理を明文化したものです。歯科医院でも、歯科衛生士、歯科助手、歯科受付などの従業員を解雇することは、たとえ就業規則に記載している解雇事由に該当する場合であっても、かなり難しいと考えなければなりません。

 

次回も「普通解雇」の解説をします。