2021年6月29日火曜日

 

156-20210629

今回は、「辞職」について解説します。

(解説)

1 辞職とは、従業員が一方的に雇用契約を解約することで、一方的退職ともいいます。民法によれば、期間の定めのない雇用契約では、従業員は2週間の予告期間を置けば、「いつでも」雇用契約を解約することができます(民法627条1項<当事者が雇用の期間を定めなかったときは、各当事者は、いつでも解約の申入れをすることができる。この場合において、雇用は、解約の申入れの日から2週間を経過することによって終了する>)。この「いつでも」の意味は、「どのような理由があっても解約できる」ということであり、民法627条1項は、従業員に対して「退職の自由」を保障した条文(強行法規)ということになります。さらに、退職の自由は、憲法上の職業選択の自由(憲法22条1項<何人も、公共の福祉に反しない限り、・・・職業選択の自由を有する>)を支える関係にあり、退職の自由を伴わない職業選択の自由は無意味なものになります。なお、退職に関する事項は、就業規則の絶対的必要記載事項とされているので(労働基準法89条3号)、必ず就業規則に記載する必要があります。

2 歯科医院の従業員(歯科衛生士、歯科受付、歯科助手、歯科技工士)の多くは期間の定めのない雇用契約を締結していると考えられます。ですから、この就業規則では、従業員が退職の届出をしたにもかかわらず医院(院長)が退職を承諾しない場合は、雇用契約は「退職の届出を行った日から2週間を経過することによって終了する」こととしました。

 

次回も引続き「辞職」の解説をします。

2021年6月23日水曜日

 

155-20210623

今回は、「辞職」に関する条文を作成します。

第〇条(辞職)

従業員が退職の届出をしたにもかかわらず医院が退職を承諾しない場合には、雇用契約は退職の届出を行った日から2週間を経過することによって終了する。

 

次回は、「辞職」についての条文の解説をします。

2021年6月16日水曜日

 

154-20210616

今回も引続き「合意退職」について解説します。

(解説)

4 合意退職の場合、従業員はその退職の意思表示を撤回できるかどうかについて触れておく必要があります。1で述べたように、合意退職の効力は従業員(たとえば歯科衛生士)が退職の申込みを行い、医院(たとえば院長)がこれを承諾した時点で発生しますから、医院(たとえば院長)が承諾するまでの間は原則として意思表示を撤回することができることになります。問題になるのは、比較的大きな規模の歯科医院で、院長のほかに「事務長」等を置いている場合です。事務長が退職承認の最終決裁権をもっている場合は、当該事務長が承諾すれば合意退職が成立します。しかし、事務長が退職承認の最終決裁権をもっていない場合は、院長が承諾した時点で合意退職の効力が発生しますから、院長の承諾があるまでは従業員の退職の意思表示は撤回できることになります。業種は異なりますが、同旨の判例が多数あります。

 

5 退職日が決定したときは、従業員に「退職届」を提出させます。2で述べたように、退職の意思表示は、必ずしも退職願(退職届)のような文書でなくても口頭やメールでもかまいませんが、それだけに退職の意思表示をめぐってはトラブルになる可能性も高いのです。トラブルを防止するためにも、最終的に退職日が決まった段階で必ず「退職届」を提出させるようにします。

 

次回は、「辞職」に関する条文を作成します。

2021年6月9日水曜日

 

153-20210609

今回も引続き「合意退職」について解説します。

(解説)

2 この条文の第1項では、退職希望日の30日以上前に医院に退職の意思を伝えることとしています。この退職の意思表示は、必ずしも退職願(退職届)のような文書でなくても口頭やメールでもかまいません。従業員の退職希望日をそのまま医院が承諾すれば有効な合意退職となります。しかし、歯科医院では、今日、優秀な歯科衛生士を確保することが難しくなっており、加えて予約制で運営していることから、従業員の退職希望日通りの退職を承諾すると医院の運営に支障をきたし、ひいては患者さんに迷惑をかけることにもなりかねません。このような場合は、医院と従業員双方で話合いをして退職日を決めることになります。退職の意思表示が、退職希望日の30日以上前でない場合も、従業員の退職希望日をそのまま医院が承諾すればそれはそれで有効な合意退職となりますが、そうでない場合は同じように話合いによって退職日を決めることになります。

 

3 話合いによって退職日が決まらない場合は、この条文の第2項で「医院は従業員が退職希望日に退職することを承諾するものとする」としました。従業員には「退職の自由」が保証されているというのがその理由です。退職の自由については、「辞職」の条文の解説で詳しく述べることにします。歯科医院は他の業種に比べても労働移動が比較的頻繁に行われる職場です。従業員の退職を制限することは、たとえば歯科衛生士が転職することによってスキルを向上させ、あるいはより良い労働条件を獲得するチャンスを奪うことになります。したがって、話合いによって退職日が決まらない以上、従業員に退職の自由が保障されていることから、医院は従業員が退職希望日に退職することを承諾せざるを得ないのです。

 

次回も「合意退職」の解説をします。

2021年6月1日火曜日

 

152-20210601

今回は、「合意退職」について解説します。

(解説)

1 退職には、①従業員と使用者が合意によって雇用契約を解約する場合(合意退職)と、②従業員が一方的に雇用契約を解約する場合(一方的退職=辞職)があります。①の場合は、従業員(たとえば歯科衛生士)が退職の申込みを行い、医院(たとえば院長)がこれを承諾することによって雇用契約が解消されるのが一般的です。現実には、①なのか②なのか、はっきりしない場合も少なくありません。実務上は、慰留されることを断固拒否するような明確な態度や、なりふり構わず辞めるという強引な態度がみえる場合は、②として取扱っていいと思います。判例もおおむねそのように解しています。なお、退職に関する事項は、就業規則の絶対的必要記載事項とされているので(労働基準法89条3号)、必ず就業規則に記載する必要があります。

次回も引続き「合意退職」の解説をします。