2018年10月29日月曜日


88-20181029

今回も引続き「時間外労働命令」の解説をします。

(解説)
5 前回の4で述べたように、従業員は、医院との間で、所定労働時間の範囲内で労務を提供する合意をしていますから、その時間を超えて従業員に仕事をさせるには従業員の同意が必要です。
その同意は、時間外労働をさせる度ごとに同意を得るというものではなく、包括的な同意でよいとされています。
つまり、あらかじめ就業規則で「医院は、業務の必要がある場合、36協定に基づき第○条に定める所定労働時間外に労働を命じることがある」と規定して、就業規則を周知しておけば、従業員の包括的な同意を得たことになります。
したがって、本条1項は、医院が従業員に時間外労働を命じることができる根拠となる規定です。

6 労働契約法は「労働者及び使用者が労働契約を締結する場合において、使用者が合理的な労働条件が定められている就業規則を労働者に周知させていた場合には、労働契約の内容は、その就業規則で定める労働条件によるものとする(以下略)」(労働契約法7条)と定めています。
それでは、合理的な労働条件とはどのようなものでしょう。
これについては、次回で解説します。

次回も引続き「時間外労働命令」の解説をします。

2018年10月24日水曜日


87-20181024

今回も引続き「時間外労働命令」の解説をします。

(解説)
3 医院は、従業員との間で、労働基準法36条の協定(36協定)を締結して届出れば、その協定にしたがって法定時間外労働をさせることができます。
しかし、これは、労働基準法32条違反として処罰されないということだけであって、従業員に時間外労働を命じることができるかどうかは労働契約上の問題です。

4 従業員は医院との間で、所定労働時間の範囲内で労務を提供する労働契約を締結していますから、その時間を超えて従業員に仕事をさせることは、労働条件の変更となり、これには従業員の同意が必要です。

次回も引続き「時間外労働命令」の解説をします。

2018年10月16日火曜日


86-20181016

今回は「時間外労働命令」の解説をします。

(解説)
1 はじめに、「法定時間外労働」と「所定時間外労働」の区別をしておきましょう。
労働基準法は、「使用者は、労働者に、休憩時間を除き1週間について40時間を超えて、労働させてはならない。」(同法321項)、「使用者は、1週間の各日については、労働者に、休憩時間を除き1日について8時間を超えて、労働させてはならない。」(同法322項)と定めています。
この、1週間に40時間、1日に8時間を超えて労働させることを「法定時間外労働」といいます。
この規定に違反した場合は、6か月以下の懲役又は30万円以下の罰金に処せられます(同法1191号)。
医院と従業員は、就業規則(労働契約)で始業時刻、終業時刻及び休憩時間を合意しています。
所定労働時間とは、始業時刻から終業時刻までの時間から休憩時間を除いた時間をいいます。この所定労働時間を超えて労働させることを「所定時間外労働」といいます。

2 「法定時間外労働」と「所定時間外労働」の区別を具体例で考えてみましょう。
S歯科医院の所定労働時間は、就業規則で、月曜日から金曜日まで各7時間、土曜日は4時間(1週39時間)となっています。
この17時間、1週39時間を超えた時間が「所定時間外労働」です。
これに対して、18時間を超えた時間及び140時間を超えた時間が「法定時間外労働」となります。

次回も引続き「時間外労働命令」の解説をします。

2018年10月9日火曜日


85-20181009

今回は、「時間外労働命令」に関する条文を作成します。

第○条(時間外労働命令)
1 医院は、業務の必要がある場合、36協定に基づき第○条に定める所定労働時間外に労働を命じることがある。
2 やむを得ず時間外労働の必要が生じた場合、従業員は事前に上司に申出てその許可を得なければならない。
従業員が、医院の許可なく時間外労働を行った場合、当該業務に係わる賃金及び割増賃金は、これを支払わない。

次回は、「時間外労働命令」の条文について、解説をします。

2018年10月2日火曜日


84-20181002

今回は「休日の振替」と「代休」について、具体例で考えます。

5 事例「S歯科医院の週休日は、2日(木曜日<休診日>と交代休日)です。
しかし、出勤すべき従業員が急に病気になったり、退職者があって人員の手当ができなかったり、その他諸々の理由で交代休日に出勤してもらうことがあります。
このような場合には、給与の締切日までに代休を与えることにしています。
ところが、従業員のKさんが『休日に出勤したのだから、その分の賃金と残業の割増賃金を頂きたい』と言ってきました。
Kさんの言うとおりにしなければならないでしょうか?ちなみに、S歯科医院には就業規則がありません。」

(解説)
(1)「休日の振替(事前の振替)」は、労働契約(就業規則等)であらかじめ特定された休日を労働日に変更することですから、院長がこれを一方的に行うことはできず、これを行うための労働契約上の根拠が必要です。
そのためには、事前に就業規則等で、業務の必要があるときは交代休日を他の日に振替ることができる旨を規定します。それにしたがって振替を行うようにします。

(2)「代休(事後の振替)」は、上記のような就業規則上の根拠なしに、実際に交代休日に出勤させてから、後でこれに代わる休日(代休)を与えるものです。
したがって、本来の休日(交代休日)における労働は休日労働にほかならず、Kさんの要求どおり、賃金と残業の割増賃金を支払わなければなりません。
これを避けるためには、就業規則に本条2項のような規定を設けることが必要となります。

(3)最近、働く人たちは、インターネットを利用して労働関係の知識を豊富にもっています。これからも、職場の労働条件に疑問をもった従業員が、院長に対してさまざまな質問や要求をしてくるケースが増えてくると思います。
この事例からもわかるように、S歯科医院に就業規則があって、「休日の振替」や「代休」の規定を定めておけば、Kさんの疑問や要求に対して就業規則を根拠に説明し、Kさんを十分納得させることができたはずです。
このように、就業規則は院長と従業員との労働契約ですから、規模の大小を問わず就業規則を作成することは歯科医院の経営にとって大きな意味があります。
私は、それぞれの歯科医院にあった就業規則を作成しています。ご相談ください。

次回は「時間外労働命令」に関する条文を作ります。