2016年10月19日水曜日


20-20161019



今回は、歯科医院の従業員の「試用期間」に関する条文の解説をします。



(解説)

1 試用期間とは、正社員を採用するにあたって、採用後一定期間を「試用」の期間として、その間に当該正社員の人物や職務能力(例えば技術や接遇の能力)を評価して、本採用するかどうかを決定する制度です。裁判所は試用期間の法的性質について「解約権留保付労働契約」と解しています。したがって、試用期間中ないしは試用期間満了時の解雇や本採用拒否は、留保解約権の行使となり、この行使は「解約権留保の趣旨、目的に照らして、客観的に合理的な理由が存し社会通念上相当として是認されうる場合のみ許される」としています(三菱樹脂事件<最高裁大法廷判決昭和48.12.12>)。そのうえで、このような留保解約権に基づく解雇は通常の解雇よりも広い範囲において解雇の自由が認められるべきであると判示しているので(上記最高裁判決)、歯科医院における試用期間中の従業員の本採用拒否は通常の解雇の場合よりも院長の有する労働契約解消の裁量範囲が広いものと考えてよいでしょう。



2 上述のように試用期間中の従業員の本採用拒否は、通常の解雇の場合よりも院長のもつ労働契約解消の裁量範囲が広いものと考えられるので、従業員にとっては不安定な地位におかれることになります。したがって、合理的な理由や必要性もなく長期にわたる試用期間を設けることは公序良俗違反として無効となり得ます(民法90条)。歯科医院の場合には、人物や職務能力(例えば技術や接遇の能力)を評価するために3か月程度が適当であると考えられますから、第1項で最長4か月間としました。



3 本条2項は、試用期間が本採用を決定するための期間であることと、その決定は「試用期間の途中又は満了日に行う」として、試用期間満了前の決定が可能であることを明確にしています。



4 試用期間を延長するためには、就業規則で延長事由等を規定し、かつ延長するための合理的な理由が必要とされています。合理的な理由がなければ、最初の試用期間満了と同時に本採用されたものとされるでしょう。延長期間も、実務上は、試用期間と延長期間を合算して1年を超えることは許されないと考えておいた方がいいでしょう(3項)。



5 本条4項は、試用期間を勤続年数に含めることを明確にしたものです。



次回は、歯科医院の従業員の「休職」についての条文を考えましょう。

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