2020年10月27日火曜日

 「資料としてすぐに使える歯科就業規則の雛形」が完成しました。

労働条件に関する従業員の疑問や質問に対して、どのように説明したらいいものか困った経験はありませんか?

労働法の大改革である働き方関連法令が成立し、その一部は歯科医院など中小規模の事業所に対しても、2019年4月から適用されていますが、従来の就業規則や雇用契約を見直す必要はありませんか? 

この「雛形」は、院長が従業員の労働条件に関する疑問や質問に対して回答し、トラブルを避け、従来の就業規則や雇用契約を見直すための参考資料となることを目的に作成しました。

従業員の採用から退職までの人事・労務管理に必要な条文を網羅し、かつ参考にしたい条項を容易に検索できるように目次をつけたので、参考資料として大いに活用していただけるものと思います。

価格(税込み) 1冊 4,800円 

詳しくは、ホームページをご覧ください。

https://sites.google.com/view/sikakisoku

2020年9月30日水曜日

 

128-20200930

今回は「特別休暇」の解説をします。

(解説)

1「特別休暇」は「年次有給休暇」と異なり、必ずしも付与しなければならないものではありません。しかし、歯科医院において特別休暇は、従業員を確保し定着させるために有効な制度です。 また、年次有給休暇が発生していない従業員に慶弔事由が発生したため休暇をとらざるを得ない場合に、この日を欠勤にして無給とすることは当該従業員にとって酷な場合があります。このような理由から、歯科医院の多くは特別休暇を付与する傾向にあります。

 2 第1項1号(結婚休暇)は、常識の範囲を超えた時季に突然特別休暇を申請されるのは労務管理上困りますから、入籍日から起算して6か月以内に取得しなければならないという制限を加えています。また、最近では海外新婚旅行などが増える傾向にあるので、特別休暇の日数には歯科医院の休診日(定休日)を含むこと(第2項)としています。

次回も引続き「特別休暇」の解説をします。

2020年9月3日木曜日


127-20200903

今回は、「特別休暇」に関する条文を作成します。

第○条(特別休暇)
1 次の各号の一に該当するときは、従業員の請求により、当該各号に定める日数の特別休暇を与える。
①  従業員が結婚するとき(入籍日から起算して6か月以内に取得するものとする) 連続○日
②  子が結婚するとき  ○日
③  兄弟姉妹が結婚するとき  ○日
④  妻が出産するとき  ○日
⑤  配偶者、子、父母(養父母を含む)が死亡したとき  ○日
⑥  孫、兄弟姉妹、本人の祖父母、配偶者の父母が死亡したとき  ○日
⑦  兄弟姉妹の配偶者、配偶者の祖父母、配偶者の兄弟姉妹が死亡したとき  ○日
⑧  従業員が、裁判員、補充裁判員又は裁判員候補者となった場合  必要な日数又は必要な時間
⑨  その他前各号に準じ歯科医院が必要と認めたとき  必要と認めた期間
2 前項第1号の休暇日数には、歯科医院の休診日(定休日)を含むものとする。
3 従業員は、第1項の特別休暇を取得しようとする場合、歯科医院に対して事前に文書により申請し、その承認を受けなければならない。
但し、第1項第4号から第7号の場合について、やむを得ない事由により事前に申請することができないときは、事後すみやかに申請して承認を得なければならない。
4 従業員が前項の手続を怠った場合は、原則として無断欠勤として取扱う。
5 前項の特別休暇期間中については、歯科医院の休診日(定休日)を除き、所定労働時間労働した場合に支払われる通常の賃金を支給する。

次回は、「特別休暇」に関する条文の解説をします。

2020年8月26日水曜日


126-20200826(新型コロナ対応「労働条件の変更(賞与の不支給・減額)」)解説

引続き、新型コロナウイルスの影響により従来の労働条件を変更せざるを得なくなった場合の対応について解説します。

今回も引続き「賞与の不支給・減額」について解説します。

5 これまで支給してきた賞与を不支給あるいは減額できるかどうかは、具体的な賞与請求権が発生しているか否かによって異なります。
第1の場合のように、賞与の支給金額が定まっているときは、医院がこれを支給しない、あるいは減額する場合は、個々の従業員の同意が必要になります。
同意が得られない場合は、就業規則をたとえば第3のように変更する必要があります。
これは就業規則を不利益に変更することですから、この変更に「合理性」があるかどうかで、その変更の効力の有無が決まることになります。
合理性の内容については、「定期昇給の凍結」で解説したとおりです。
新型コロナウイルスの影響によって医院の業績が悪化したために、賞与を不支給あるいは減額する場合には、合理性は比較的認められやすいと思われます。

6 第2及び第3の場合のように、具体的な賞与請求権が発生していない場合は、使用者には賞与の支給義務がないので、これまで支給してきた賞与を不支給あるいは減額することは、原則的に可能であると思われます。

次回は、「特別休暇」に関する条文を作ります。

2020年8月13日木曜日

 

125-20200813(新型コロナ対応「労働条件の変更(賞与の不支給・減額)」)解説

 

引続き、新型コロナウイルスの影響により従来の労働条件を変更せざるを得なくなった場合の対応について解説します。

 

今回から2回にわたって歯科医院の「賞与の不支給・減額」について解説することにします。

 

1 賞与とは、「定時または臨時に、原則として労働者の勤務成績に応じて支給されるものであって、その支給額が予め確定されていないもの」とされています(行政通達)。また、裁判例では、賃金は「労務提供があれば使用者からその対価として必ず支払われる雇用契約上の本来的債務」であるが、賞与は「支給するか否か、支給するとして如何なる条件のもとで支払うかはすべて当事者間の特別の約定(ないしは就業規則等)によって定まる」(梶鋳造書事件・名古屋地裁昭和55年判決)とされています。したがって、従業員が使用者に対して賞与の支払を請求するためには、就業規則の規定や雇用契約がどのようになっているか、場合を分けて検討する必要があります。

 

2 まず第1に、就業規則や雇用契約書で、たとえば「賞与は毎年6月及び12月に、それぞれ基本給の1.5か月分を支給する」というような規定がある場合です。このような場合は、賞与の支給金額、支給時期が具体的に定まっていますから、従業員は歯科医院に対して賞与の具体的請求権をもっていることになります。したがって、医院はその定まっている賞与額を支払わなければなりません。就業規則や雇用契約書に規定がなくても、面接・採用時にたとえば「賞与は年に基本給の3か月分を支給する」というような口約束(合意)をしていた場合も同様です。賞与の支給金額、支給時期、計算方法等について労使間の合意を認め、従業員の賞与の請求を肯定した判例があります(パン・アメリカン航空事件・千葉地裁佐倉支部昭和56年判決)。

 

3 第2に、就業規則や雇用契約書で、たとえば「賞与は毎年6月及び12月に支給する」というような規定がある場合です。このような場合は、使用者は賞与を支給することは約束していますが、具体的な支給金額はまだ定まっていません。判例は、賞与の具体的な請求権は、就業規則等における支給金額またはその算出基準が定められてはじめて発生するものであり、単に賞与を支給する旨の規定によっては具体的な請求権は発生しないとしています(御国ハイヤー事件・高松高裁昭和63年判決)。

 

4 第3に、就業規則に「賞与は、毎年6月及び12月に支給する。但し、医院の業績によって支給できないことがある。賞与の額は、別に定める基準により、歯科医院に対する貢献度等を総合的に評価してこれを算定する」のような規定を設けている場合です。このような場合は、賞与を支給するかどうかは医院の裁量の問題となり、また支給金額は貢献度等の評価にかかわっていますから、評価の結果が出るまでは従業員の具体的な賞与請求権は発生しないものと考えられます。判例も、賞与請求権は使用者による人事考課査定に基づき個々人の支給額が決定されたときに具体的な請求権として発生するとし、人事考課査定が終わる前に退職した従業員については賞与請求権は発生しないとしています(N興業事件・東京地裁平成15年判決)。

 

次回も引続き「賞与の不支給・減額」について解説します。

2020年8月6日木曜日


123-20200806(新型コロナ対応「労働条件の変更(定期昇給の凍結)」解説

今回も引続き「定期昇給の凍結」について解説します。

6 定期昇給を凍結(見送り)することができるかどうかについては、場合を分けて考える必要があります。
まず第1に、就業規則や給与規程に定期昇給についての定めがある場合です。
たとえば「毎年4月に、基本給を○○パーセント昇給させる」とか「毎年4月に、別表で定める給与を1号俸昇給させる」のような規定がある場合はどうでしょうか。
このような定めがある場合には、昇給額を具体的に計算することができるので、従業員には賃金支払請求権が発生することになります。
このような規定のもとで、定期昇給を凍結する(見送る)ことは、約束されていた賃金を受け取ることができなくなることですから、労働条件の不利益変更になることは明かです。

7 第2に、就業規則や給与規程に定期昇給についての定めがあっても、たとえば「昇給は、毎年4月に本人の年齢、勤務状況、医院に対する貢献度等を総合的に勘案してその額を決定する」とか「給与改定(昇給・降給)は、医院の業績等を考慮して原則として毎年4月に辞令を交付し、当該辞令に定める金額を5月の給与支給日から支給する」というような定めになっている場合はどうでしょうか。
このような場合には、医院は定期昇給の義務は負っているものの、まだその具体的な金額が確定しているわけではないので、定期昇給をしなかったとしても、直ちに労働条件の不利益変更になるわけではありません。

8 第3に、就業規則や給与規程がなく(それがあっても、その規定の内容に準拠せずに、異なる別の基準を示して)、長年にわたり慣例的に定期昇給を行なってきた医院が、売上の減少により定期昇給を凍結(見送り)した場合はどうなるでしょうか。
このような場合、医院と従業員の間には、毎年定期昇給が行なわれるという“黙示の合意”が成立していると考えられますから、個々の従業員の合意(同意)を得ずに定期昇給を凍結する(見送る)ことは、労働条件の不利益変更になると考えられます。
現実には、このような運用をしている歯科医院が多いと思われます。
裁判例では、9年間にわたり使用者が定期昇給額の算定方法を説明し、その説明内容にしたがって定期昇給がなされてきたという事案に対して、労使間には黙示の合意が成立しているとしたものがあります(三和機材事件・平成22年千葉地裁判決)。

次回も引続き「定期昇給の凍結」について解説します。



2020年7月22日水曜日


122-20200730(新型コロナ対応「労働条件の変更(定期昇給の凍結)」解説

引続き、新型コロナウイルスの影響により従来の労働条件を変更せざるを得なくなった場合の対応について解説します。

今回から数回にわたって「定期昇給の凍結」について解説することにします。

1 患者さんが新型コロナウイルスに感染するのを避けるために受診(通院)を控える傾向がみられ、それによって経営状況が悪化した医療機関が少なくないといわれます。
歯科医院の多くは、これまでも競争過多による患者さんの減少などで経営環境は必ずしも良好とはいえない状況でした。
加えて、新型コロナウイルスの影響による受診(通院)控えでさらに売上を減らした医院があるといいます。
このような状況に鑑みて、定期昇給を凍結する(見送る)ことができるのか、できるとしたらどのような条件が必要かについて考えてみましょう。

2 ここで、「定期昇給」と「ベース・アップ」の違いについて触れておきます。
「定期昇給」とは、毎年一定の時期を定め、従業員の能力や医院に対する貢献度等を勘案しつつ、定期的に賃金の基本的部分を増額することです。 

3 たとえば、21歳のDHのAさんの基本給が250,000円の場合、これを5,000円増額して255,000円にすることが「定期昇給」です。
「ベース・アップ」とは、DH全員の賃金水準を一律に引き上げるものです。

4 たとえば、DH全員の基本給を2,000円引き上げて、21歳のAさんの基本給250,000円を252,000円に、22歳のBさんの基本給260,000円を262,000円に、23歳のCさんの基本給270,000円を272,000円にすることを「ベース・アップ」といいます。

5 定期昇給とベース・アップを同時に行なうと、たとえば、Aさんの基本給は257,000円になります。
定期昇給もベース・アップも人件費の増加になります。
定期昇給は、中途退職や定年退職によって従業員が入れ替るので人件費の負担はそれほど増しませんが、ベース・アップは、全員の基本給を底上げすることですから、将来にわたって人件費の負担が増すことになります。

次回も引続き「定期昇給の凍結」について解説します。