2022年6月29日水曜日

 

192-20220629

引続き「懲戒の種類及び程度」について解説します。

(解説)

15 この就業規則は「諭旨解雇」について、「懲戒解雇相当の理由がある場合で本人に反省が認められるときは、解雇事由に関し本人に説諭して解雇することがある。諭旨解雇となる者には、その状況を勘案して退職金の一部を支給しないことがある」と規定しています。諭旨解雇は、本人に反省が認められるなどの情状等を斟酌して、懲戒解雇を若干緩和した処分であり、退職金も全部又は一部が支払われることがあります。

16 裁判例としては、①上司・同僚に対する度重なる脅迫、強要、いやがらせ等の非違行為が重大で懲戒解雇にも値する場合は、退職金を一部支給して諭旨解雇を選択したことは相当であって、解雇有効と判断された例(日本電信電話事件)や、②職場で上司に対する暴行事件を起こした従業員に対し、暴行事件から7年以上経過した後にされた諭旨退職処分(退職願の提出を勧告し即時退職を求めるもの。退職願の提出勧告を含めて「諭旨解雇」の意思表示であると考えられる)が懲戒権濫用として解雇無効と判断された例(ネスレ日本事件)などがあります。

17 諭旨解雇が懲戒解雇を若干緩和した処分だとしても、従業員を失職させる点で不利益を与えることに変わりはありません。したがって、歯科衛生士、歯科助手、歯科受付などの従業員に対して諭旨解雇を行なう場合は、懲戒解雇に準じた厳しい適法性判断が求められることに注意が必要です。

次回も「懲戒の種類及び程度」について解説します。

2022年6月22日水曜日

 

191-20220622

引続き「懲戒の種類及び程度」について解説します。

(解説)

12 この就業規則は「降職・降格」について、「始末書を提出させて将来を戒めるとともに、職位を解任し若しくは引下げ又は資格のランクを降ろす」と規定しています。歯科医院では、実際には、職位の引下げの結果として資格も引下げることが多いと思われます。たとえば、管理職の職位にあった歯科衛生士が平の歯科衛生士に降職した結果、職能資格が○級から△級に低下し、賃金も減額となるような場合です。

13 懲戒処分としての「降職・降格」は、就業規則上の根拠を要するとともに、懲戒事由該当性及び処分の相当性(労働契約法15条)が求められます(186回参照)。処分の相当性については、当該歯科衛生士の情状、他の懲戒処分との均衡、賃金減額の程度が問題になります。

14 「降職・降格」の範囲は、同一の雇用契約の内容の変更と考えられる範囲に限られますから、たとえば正社員(無期雇用)の歯科衛生士を契約社員(有期雇用)にする処分は、別個の雇用契約への変更となるので許されません。

次回も「懲戒の種類及び程度」について解説します。

2022年6月15日水曜日

 

190-20220615

引続き「懲戒の種類及び程度」について解説します。

(解説)

10 この就業規則は「出勤停止」について、「始末書を提出させて将来を戒めるとともに7労働日以内の期間を定めて出勤を停止し、その間の賃金を支給しない」と規定しています。出勤停止期間中は賃金が支給されず、勤務年数にも算入されないので、出勤停止は従業員にとって過酷な処分といえるでしょう。したがって、出勤停止処分は、非違行為に対して何度も注意や警告を発したにもかかわらず、従業員がその態度を改めなかった場合に限って選択すべきであると考えます。

11 歯科医院では、いきなり出勤停止処分を選択せずに、とりあえず自宅待機命令を発するのが現実的かもしれません。自宅待機命令は、たとえば歯科衛生士が非違行為を行なった場合に、その懲戒処分を決定するまでの間、あるいは他の歯科衛生士や歯科助手に対する悪影響を避けるために、院長が暫定的に当該歯科衛生士に対して就労を禁止する措置のことをいいます。自宅待機期間中の賃金が支払われますから、出勤停止処分とは異なります。

院長は、就業規則上の根拠や手続を考慮せずに、日常の指揮命令権を行使して自宅待機命令を発することができます。当該歯科衛生士が反省すれば自宅待機だけで目的を達することができますし、そうでない場合は改めて出勤停止処分をすることになるでしょう。その場合も二重処分禁止には違反しません。

次回も「懲戒の種類及び程度」について解説します。

2022年6月8日水曜日

 

189-20220608

引続き「懲戒の種類及び程度」について解説します。

(解説)

8 この就業規則は「減給」について、「始末書を提出させて将来を戒めるとともに減給する。この場合、減給の額は1事案について平均賃金の1日分の半額とし、複数事案については一賃金支払期間の減給総額が当該賃金支払期間における賃金総額の10分の1を超えないものとする。但し、減給総額が当該賃金支払期間における賃金総額の10分の1を超える部分については、翌月以降の賃金を減ずる」と規定しています。この規定は、過大な減給を抑制する趣旨で設けられた労働基準法91条に添ったものです。

9 懲戒処分としての減給は、たとえば歯科衛生士が歯科医院で働いた結果として発生した賃金債権を一部消滅させることですから、欠勤・遅刻・早退のように労務不提供を理由とする賃金カットや、配転・降格等による賃金減額などは、懲戒処分としての減給には該当しません。

次回も引続き「懲戒の種類及び程度」について解説します。

2022年6月1日水曜日

 

188-20220601

引続き「懲戒の種類及び程度」について解説します。

(解説)

6 この就業規則の懲戒の種類は、①けん責、②減給、③出勤停止、④降格・降職、⑤諭旨解雇、⑥懲戒解雇の6種類です。以下、これらを順次解説します。

7 この就業規則は「けん責」について、「始末書を提出させて将来を戒める」と規定しています。ここで始末書とは、自己の違法な行為を認めて謝罪し、将来同様の行為を行なわないことを誓約する文書のことです。この「けん責」について、従業員(たとえば歯科衛生士)が始末書を提出しない場合にはどのように対応したらいいのでしょうか。私は、業務命令で始末書の提出を強制することも、始末書を提出しないことに対してさらに懲戒を科すこともできないと考えます。しかし、このような従業員は改善する姿勢に乏しいと考えられますから、人事考課で不利に評価されることになるでしょう。

次回も引続き「懲戒の種類及び程度」について解説します。