2018年5月29日火曜日


73-20180529

今回は、「割増賃金に関するトラブル」の裁判例を紹介し、そのトラブルの解決方法を考えます。

(解説)
10 割増賃金の計算の基礎に入れなくてもよい賃金については、前回(第72回)の解説8で述べたとおりです。
このうち家族手当、通勤手当、別居手当、子女教育手当、住宅手当については、労働と直接関係が薄く、個人的事情に基づいて支払われるものであって、時間外労働等がなされたからといって割増賃金として増額されるべき性格のものではなく、したがって割増賃金の計算の基礎から除かれたものであると考えられています。

11 家族手当と通勤手当が、割増賃金の計算の基礎になるかどうかが争われた裁判例があります。
「壺坂観光事件(奈良地裁判決 昭和56年)」です。
この事件では、家族手当が家族構成に関係なく一律に支給され、通勤手当は通勤距離等に関係なく一律に支給されていました。
裁判所は、家族手当や通勤手当は上記のような理由に基づいて例外的に割増賃金の計算の基礎から除かれたものであるから、名称が家族手当や通勤手当であっても、家族構成員の属性や数に関係なく、また通勤距離等とは無関係に一律に支給されているような場合には、除外賃金には当たらないと判示しました。

12 歯科医院でよく問題になるのは住宅手当です。
従業員に一律に一定額を支給しているケースが見受けられます。これも従業員の個別の事情に応じた手当額にしなければ除外賃金とは認められません。
たとえば、家賃の一定割合、住宅ローン返済額の一定割合を補助するような運用にする必要があります。

次回は、「公民権行使の時間」についての条文を作ります。

2018年5月15日火曜日


72-20180515

今回は、割増賃金の具体的な計算方法を解説します。

(解説)
7 割増賃金を計算する場合の1時間当たりの単価(以下「時間単価」という)の計算方法は、労働基準法施行規則19条に定められています。
月給の従業員の場合は、月給を月の所定労働時間数(月によって所定労働時間数が異なる場合は、1年間における1か月平均所定労働時間数)で除した金額がその従業員の時間単価です。
具体的には、[基本給+諸手当(家族手当、通勤手当などの除外手当を除く)]÷1年間の月平均所定労働時間数となります。
この計算式の「1年間の月平均所定労働時間数」は、[(365―年間所定休日数)×1日の所定労働時間]÷12です。

8 割増賃金の計算の基礎に入れなくてもよい賃金は、①家族手当、②通勤手当、③別居手当、④子女教育手当、⑤臨時に支払われた賃金、⑥賞与など1か月を超える期間ごとに支払われる賃金、⑦住宅手当です。
以上の賃金以外の賃金は、すべて割増賃金の基礎となる賃金に入れなければなりません。なお、これらの賃金は、単に名称で判断するのではなく、当該手当・賃金が実質的にその性格に合致しているかどうかで判断します。
また、割増賃金の基礎となる賃金は、「通常の労働時間の賃金」ですから、時間外の労働に対する割増賃金、深夜労働割増賃金はこれに含まれません。

9 1日の所定労働時間が8時間、年間所定休日が120日(定休日105日、祝祭日など15日)、基本給15万円及び除外手当を除く諸手当5万円(月給20万円)の従業員の、1時間当たりの割増賃金単価は、次のようになります。


{ 20万円÷[(365日ー120日)× 8時間 ÷ 12か月]}×1.25 =1,531 円


次回は、「割増賃金に関するトラブル」の裁判例を紹介し、その解決方法を考えます。

2018年5月8日火曜日


71-20180508

今回も引続き「割増賃金を支払う場合」の解説をします。

(解説)
4 多くの歯科医院では、1週間に1日の休診日が決まっていますから、法定休日(1週間に1日も休日が確保されない場合)の労働は発生しないと思われます。
しかし、①振替休日を行った結果、1週間に1日の休日が確保できなかった場合や、②急患に対する対応など業務の都合によりやむを得ず法定休日に労働させるような場合が考えられます。
このような場合は、35%増以上の割増賃金を支払わなければなりません。

5 法定外の休日の労働により、1週間の法定労働時間(40時間)を超える場合には、25%増以上の割増賃金が発生します。

6 最近、顧客へのサービス向上のために、午後10時過ぎまで診療している医院も見受けられます。労働時間が深夜(午後10時から翌日午前5時までの時間帯)に及ぶ場合には、25%増以上の深夜労働割増賃金を加算する必要があります。

次回は、割増賃金の具体的な計算方法を解説します。

2018年5月1日火曜日


70-20180501

今回は「割増賃金を支払う場合」の解説をします。

(解説)
1 従業員にとって、どのような場合に割増賃金が支払われるのかは切実な問題です。割増賃金を正確に計算して給与を支払っているかどうかは、従業員の院長に対する信頼に関わり、ひいては従業員の定着をも左右します。
このため、私は、従業員を採用する際に就業規則の説明会を開き、その際、どのような場合に割増賃金が発生するか、その計算方法、従業員各人の割増賃金単価等を文書で交付することにしています。これが従業員の定着に大きく貢献していると考えています。

2 1週間の時間外労働を計算する場合に、すでにカウントされた日々の時間外労働は除いて計算します(2重に計算する必要はありません)。

3 労働時間を計算するときは、実労働時間を用います。したがって、休憩時間、欠勤、遅刻、早退の時間を含めません。誤解が多いのは年次有給休暇を取得した時間です。これは、労務の提供がないので、実労働時間とはなりません。

次回も「割増賃金を支払う場合」の解説をします。