2021年7月28日水曜日

 

160-20210728

今回は、「辞職」の解説の最終回です。前回解説4の裁判例に出てくる民法の条文を記しておきます。

(解説)

【参考条文】

民法93条(心裡留保)

  意思表示は、表意者がその真意ではないことを知ってしたときであっても、そのためにその効力を妨げられない。ただし、相手方がその意思表示が表意者の真意ではないことを知り、又は知ることができたときは、その意思表示は、無効とする。

  (省略)

民法95条(錯誤)

  意思表示は、次に掲げる錯誤に基づくものであって、その錯誤が法律行為の目的及び取引上の社会通念に照らして重要なものであるときは取消すことができる。

1意思表示に対応する意思を欠く錯誤

2表意者が法律行為の基礎とした事情についてのその認識が真実に反する錯誤

  前項第2号の規定による意思表示の取消は、その事情が法律行為の基礎とされていることが表示されていたときに限り、することができる。

  錯誤が表意者の重大な過失によるものであった場合には、次に掲げる場合を除き、第1項の規定による意思表示の取消をすることができない。

1相手方が表意者に錯誤があることを知り、又は重大な過失によって知らなかったとき。

2相手方が表意者と同一の錯誤に陥っていたとき。

  (省略)

民法96条(詐欺又は強迫)

  詐欺又は強迫による意思表示は、取消すことができる。

  (省略)

  (省略)

 次回は、「退職までの職務精励義務」についての条文を作ります。

2021年7月21日水曜日

 

159-20210721

今回も引続き「辞職」について解説をします。

(解説)

5 辞職(一方的退職)の意思表示は、合意退職の場合と異なり、当該意思表示が医院(院長)に到達した時点で解約の効力を生ずるため、事後的な撤回はできません。ただし、意思表示の瑕疵による無効または取消(民法93条~96条)の主張は可能です。次のような裁判例があります。①従業員が、実際には退職するつもりではないのに、反省の意味で退職願を出し、使用者もそのことを知っていた場合、当該退職の意思表示は心裡留保(民法93条)として無効になる(昭和女子大事件)。②客観的には懲戒解雇事由がないのに、使用者がそれがあるかのように従業員に誤信させ、従業員に退職の意思表示をさせた場合は、当該退職の意思表示は錯誤(民法95条)として取消すことができる(昭和電線事件)。③使用者が、従業員を長時間一室に押しとどめて懲戒解雇をほのめかして退職を強要したというように、従業員に畏怖心を生じさせて退職の意思表示をさせたと認められる場合には、当該意思表示は強迫(民法96条)による取消ができる(石見交通事件)。以上の裁判例は、業種の異なる歯科医院にも参考になるものです。

 

次回も引続き「辞職」の解説をします。

2021年7月16日金曜日

 

158-20210716

今回も引続き「辞職」について解説します。

(解説)

4 就業規則等で「退職するには院長の承認(許可)を要する」としている歯科医院もあります。この規定が、合意退職については「院長の承諾を要する」という趣旨であれば、当然のことを定めているに過ぎないので、何ら問題はありません。しかし、辞職の場合にも院長の承認(承諾)を要するということであれば、1で述べた民法627条1項の趣旨に反することになります。したがって、たとえ院長の承認(許可)を得ずに退職しても、3と同様に、退職の届出を行った日から2週間を経過すれば退職の効果が当然に発生し雇用契約が終了することになります。さらに、歯科衛生士の確保難を背景にして、院長が従業員に対して「辞めるときは、代わりの人を見つけてくること」とか「次の人が決まってから辞めること」というような一方的な要求をしている歯科医院もあるようです。このような要求は明らかに従業員の退職の自由を保障する民法627条1項に違反するので、従業員に対して何の効力もありません。

 

次回も引続き「辞職」の解説をします。

2021年7月7日水曜日

 

157-20210707

今回も引続き「辞職」について解説します。

(解説)

3 歯科医院によっては、2週間よりも長い予告期間を設けている医院も見られます。しかし、1で述べたように、民法627条1項は退職の自由を保障する強行法規ですから、2週間よりも長い期間を設けても従業員をこれに従わせることはできません。したがって、退職の届出を行った日から2週間を経過すれば退職の効果が当然に発生し雇用契約が終了することになります。

 

次回も「辞職」の解説をします。