2018年11月20日火曜日


89-20181120

今回も引続き「時間外労働命令」の解説をします。

(解説)
7 時間外労働の業務命令が認められるためには、その時間外労働命令に合理性がなければなりません。
そのためには、36協定に時間外労働をさせる必要がある具体的な理由を定めておく必要があります。S歯科医院の36協定は次の具体例のようになっています。

具体例(時間外労働命令)
次の理由があるときは、所定労働時間を延長して時間外労働を命じることがある。
  急患や遅い時間に来院した患者に対応するため診療時間を延長せざるを得ない場合、 
  予期した以上に治療時間を要する患者があった場合など、所定労働時間内に業務を終了
 することが困難な場合
  会計処理、決算事務、パソコン入力、帳票整理など、所定の日時までに完了しないと業務に重大な支障をきたす場合
  その他業務の都合によりやむを得ない場合

8 本条2項は、時間外労働を「許可制」にし、従業員が許可なく時間外労働をした場合には、その賃金・割増賃金は支払わないことを定めています。
しかし、このような規定があっても、院長が従業員の時間外労働を黙認していた場合には、黙示の時間外労働命令があったといえるので、注意が必要です。

次回は「休日労働命令」の条文を作ります。

2018年10月29日月曜日


88-20181029

今回も引続き「時間外労働命令」の解説をします。

(解説)
5 前回の4で述べたように、従業員は、医院との間で、所定労働時間の範囲内で労務を提供する合意をしていますから、その時間を超えて従業員に仕事をさせるには従業員の同意が必要です。
その同意は、時間外労働をさせる度ごとに同意を得るというものではなく、包括的な同意でよいとされています。
つまり、あらかじめ就業規則で「医院は、業務の必要がある場合、36協定に基づき第○条に定める所定労働時間外に労働を命じることがある」と規定して、就業規則を周知しておけば、従業員の包括的な同意を得たことになります。
したがって、本条1項は、医院が従業員に時間外労働を命じることができる根拠となる規定です。

6 労働契約法は「労働者及び使用者が労働契約を締結する場合において、使用者が合理的な労働条件が定められている就業規則を労働者に周知させていた場合には、労働契約の内容は、その就業規則で定める労働条件によるものとする(以下略)」(労働契約法7条)と定めています。
それでは、合理的な労働条件とはどのようなものでしょう。
これについては、次回で解説します。

次回も引続き「時間外労働命令」の解説をします。

2018年10月24日水曜日


87-20181024

今回も引続き「時間外労働命令」の解説をします。

(解説)
3 医院は、従業員との間で、労働基準法36条の協定(36協定)を締結して届出れば、その協定にしたがって法定時間外労働をさせることができます。
しかし、これは、労働基準法32条違反として処罰されないということだけであって、従業員に時間外労働を命じることができるかどうかは労働契約上の問題です。

4 従業員は医院との間で、所定労働時間の範囲内で労務を提供する労働契約を締結していますから、その時間を超えて従業員に仕事をさせることは、労働条件の変更となり、これには従業員の同意が必要です。

次回も引続き「時間外労働命令」の解説をします。

2018年10月16日火曜日


86-20181016

今回は「時間外労働命令」の解説をします。

(解説)
1 はじめに、「法定時間外労働」と「所定時間外労働」の区別をしておきましょう。
労働基準法は、「使用者は、労働者に、休憩時間を除き1週間について40時間を超えて、労働させてはならない。」(同法321項)、「使用者は、1週間の各日については、労働者に、休憩時間を除き1日について8時間を超えて、労働させてはならない。」(同法322項)と定めています。
この、1週間に40時間、1日に8時間を超えて労働させることを「法定時間外労働」といいます。
この規定に違反した場合は、6か月以下の懲役又は30万円以下の罰金に処せられます(同法1191号)。
医院と従業員は、就業規則(労働契約)で始業時刻、終業時刻及び休憩時間を合意しています。
所定労働時間とは、始業時刻から終業時刻までの時間から休憩時間を除いた時間をいいます。この所定労働時間を超えて労働させることを「所定時間外労働」といいます。

2 「法定時間外労働」と「所定時間外労働」の区別を具体例で考えてみましょう。
S歯科医院の所定労働時間は、就業規則で、月曜日から金曜日まで各7時間、土曜日は4時間(1週39時間)となっています。
この17時間、1週39時間を超えた時間が「所定時間外労働」です。
これに対して、18時間を超えた時間及び140時間を超えた時間が「法定時間外労働」となります。

次回も引続き「時間外労働命令」の解説をします。

2018年10月9日火曜日


85-20181009

今回は、「時間外労働命令」に関する条文を作成します。

第○条(時間外労働命令)
1 医院は、業務の必要がある場合、36協定に基づき第○条に定める所定労働時間外に労働を命じることがある。
2 やむを得ず時間外労働の必要が生じた場合、従業員は事前に上司に申出てその許可を得なければならない。
従業員が、医院の許可なく時間外労働を行った場合、当該業務に係わる賃金及び割増賃金は、これを支払わない。

次回は、「時間外労働命令」の条文について、解説をします。

2018年10月2日火曜日


84-20181002

今回は「休日の振替」と「代休」について、具体例で考えます。

5 事例「S歯科医院の週休日は、2日(木曜日<休診日>と交代休日)です。
しかし、出勤すべき従業員が急に病気になったり、退職者があって人員の手当ができなかったり、その他諸々の理由で交代休日に出勤してもらうことがあります。
このような場合には、給与の締切日までに代休を与えることにしています。
ところが、従業員のKさんが『休日に出勤したのだから、その分の賃金と残業の割増賃金を頂きたい』と言ってきました。
Kさんの言うとおりにしなければならないでしょうか?ちなみに、S歯科医院には就業規則がありません。」

(解説)
(1)「休日の振替(事前の振替)」は、労働契約(就業規則等)であらかじめ特定された休日を労働日に変更することですから、院長がこれを一方的に行うことはできず、これを行うための労働契約上の根拠が必要です。
そのためには、事前に就業規則等で、業務の必要があるときは交代休日を他の日に振替ることができる旨を規定します。それにしたがって振替を行うようにします。

(2)「代休(事後の振替)」は、上記のような就業規則上の根拠なしに、実際に交代休日に出勤させてから、後でこれに代わる休日(代休)を与えるものです。
したがって、本来の休日(交代休日)における労働は休日労働にほかならず、Kさんの要求どおり、賃金と残業の割増賃金を支払わなければなりません。
これを避けるためには、就業規則に本条2項のような規定を設けることが必要となります。

(3)最近、働く人たちは、インターネットを利用して労働関係の知識を豊富にもっています。これからも、職場の労働条件に疑問をもった従業員が、院長に対してさまざまな質問や要求をしてくるケースが増えてくると思います。
この事例からもわかるように、S歯科医院に就業規則があって、「休日の振替」や「代休」の規定を定めておけば、Kさんの疑問や要求に対して就業規則を根拠に説明し、Kさんを十分納得させることができたはずです。
このように、就業規則は院長と従業員との労働契約ですから、規模の大小を問わず就業規則を作成することは歯科医院の経営にとって大きな意味があります。
私は、それぞれの歯科医院にあった就業規則を作成しています。ご相談ください。

次回は「時間外労働命令」に関する条文を作ります。





2018年9月12日水曜日


83-20180912

今回も「代休」について解説します。

(解説)
3 ここで、あらためて「休日の振替(事前の振替)」と「代休(事後の振替)」との違いを説明しておきましょう。
「休日の振替(事前の振替)」とは、あらかじめ休日と他の特定の労働日を振替える措置をとっているものです。
このような措置を事前にとることなしに、実際に就労させた後で、休日労働の代償として別の労働日を休日にして休ませるのが「代休(事後の振替)」です。
たとえば、所定休日である日曜日に就労させた後に、その償いとして月曜日を休日にするような場合は「代休(事後の振替)」となります。

4 「代休(事後の振替)」の場合には、本条2項のような賃金支払免除や割増賃金の精算に関する規定を定めておかないと、代休と休日出勤手当の二重負担になるので注意が必要です。

次回は、具体的な事例をあげて「代休」を説明したいと思います。



2018年9月5日水曜日


82-20180905

今回は「代休」について解説します。

(解説)
1 代休とは、休日労働があった後に、その代償として休日(就労を免除する日)を与えることであり、代休は「事後の振替」ともいわれます(これに対して、休日の振替は、「事前の振替」といわれます)。
代休は、従業員に不利益をもたらす可能性があるので、これを制度化する以上は、休日の振替(事前の振替)と同様に、その内容・手続等について就業規則に規定する必要があると考えられます。

2 代休は、使用者が一方的に就労を免除するものなので、本来であれば、医院は代休日の賃金を支払う義務があるといえます。
この賃金支払義務を消滅させるためには、その旨を就業規則に規定する必要があります。本条第2項は、そのために必要な規定です。

次回も引続き「代休」の解説をします。

2018年8月27日月曜日


81-20180827

今回は、「代休」に関する条文を作成します。

第○条(代休)
1 前条第1項の特定された休日について、振替休日の手続によらずに労働させた場合は、医院の業務上の判断により代休を与えることができる。
2 前項の代休の日は無給とする。ただし、当該休日労働が法定休日労働に該当する場合は労働基準法所定の割増賃金(0.35)を支払い、当該休日労働が所定休日労働の場合で法定時間外労働に該当する場合は、労働基準法所定の割増賃金(0.25)を支払う。

次回は、「代休」の条文について、解説をします。

2018年8月22日水曜日


80-20180822

今回も引続き「休日及び休日の振替」について解説します。

(解説)
5 本条第3項で、業務上やむを得ない事由がある場合には、すでに特定された休日を他の日に振替えることができると定めています。これを受けて、本条第4項で、その休日振替の方法を定めています。
このように、就業規則で休日を振替えることができる旨の規定を設け、これによって休日を振替える前に、あらかじめ振替えるべき日を特定して振替えを行った場合は、当該休日(すでに特定された休日)は労働日となり、休日に労働させたことにはなりません。
しかし、休日の振替の方法によらずに、すでに特定されていた休日に労働させた場合は、たとえその後に「代休」を与えても、当該休日は休日労働となり、賃金支払義務が発生します。(昭和23年及び63年通達)。

6 本条1項にかかわらず、1か月単位の変形労働時間制などの変形労働時間制を採用している場合の休日は、本条5項により労使協定で定めることになります。

次回は、「代休」に関する条文を作成します。



2018年7月25日水曜日


79-20180725

今回も引続き「休日及び休日の振替」について解説します。

(解説)
3 歯科医院では、子どもをもつ正社員のDHも少なからず働いています。医院は、このような従業員が、家庭と仕事を無理なく両立できるように配慮すべきでしょう。それが、ひいては従業員の定着に資することになります。
このため、この就業規則では、年間の休日数を特定し、それを月ごとに割振り、翌月の具体的な休日を当月の15日までに従業員に通知する方法を採用しました。
医院は、子どもをもつDHの要望をできるだけ容れて、休診日以外の休日を決定することになります。

4 この就業規則では、法定休日を特定していません。どの日が法定休日かを特定した場合、その日に休日出勤をさせれば(たとえ同一週内に所定休日を取得しても)、その日は法定休日労働となり、法定休日労働割増賃金の支払が必要になります。

次回も引続き「休日及び休日の振替」の解説をします。

2018年7月18日水曜日


78-20180718

今回は「休日及び休日の振替」について解説します。

(解説)
1 「使用者は、労働者に対して、毎週少なくとも1回の休日を与えなければならない」(労働基準法35条1項)。これを「法定休日」といいます。ここで「休日」とは、従業員が労務の提供義務を負わない日のことであり、1週間の内のどの日にするかについては、法令に何も定められていないので、労働契約(就業規則)で自由に定めることができます。

2 「法定休日」のほかに、労働契約(就業規則)で定める休日を「所定休日」といいます。したがって、休日は、「法定休日」と「所定休日」を併せた日数ということになります。

次回も引続き「休日及び休日の振替」の解説をします。

2018年7月3日火曜日


77-20180703

今回は、「休日及び休日の振替」に関する条文を作成します。

第〇条(休日及び休日の振替)
1 当院の休日は、年間○日以上となるように毎月の「勤務表」で特定し、翌月の休日を当月の15日までに各従業員に通知する。
2 前項の休日のうち、法定休日を上回る休日は、所定休日とする。
3 業務上やむを得ない事由がある場合には、第1項の休日を他の日に振替えることができる。
4 前項の場合、振替えは次の方法で行う。
  休日を当該休日より後の労働日に振替える場合は、対象となる休日の前日の勤務終了時刻までに、該当する従業員に対して通知する。
  休日を当該休日より前の労働日に振替える場合は、対象となる労働日の前日の勤務終了時刻までに、該当する従業員に対して通知する。
5 変形労働時間制を採用する場合の労使協定等により別段の定めがなされた場合の休日は、当該労使協定等の定めるところによる。

次回は、「休日及び休日の振替」の条文について、解説をします。

2018年6月27日水曜日


76-20180627

今回も「公民権行使の時間」について解説します。

(解説)
1 公民としての権利行使や公の職務執行が短時間で終了する場合は、医院の業務に支障を及ぼさないが、議員などは長期にわたる活動であり、裁判員なども数日以上に及ぶ場合がある。
このような場合には、医院の業務に支障を与えることになるので、解雇又は休職処分が許されるかという問題が生じる。
市会議員への就任を理由に解雇したケースについて「著しく業務に支障を生じる場合、或いは業務の支障の程度が著しいものでなくとも、他の事情と相俟って、社会通念上相当の事由があると認められる場合」には解雇は許されるとする裁判例(社会新報社事件 昭和55年浦和地裁判決)がある一方、「地方議会議員への就任ということだけを理由として、当該労働者を、解雇、休職、その他の不利益処分に付することは許されない」とする裁判例(森下製薬休職事件 昭和55年大津地裁決定)がある。
歯科医院の場合、他の職務への転換ができず、代替のDHを確保することが困難な事情にあるので、労働関係の継続を期待しがたいといえる状況になった場合には、解雇も許されるのではないかと考えます。

2 従業員に必要な時間を付与した場合、その時間に対応する賃金を有給にするか、無給にするかについては労働基準法に規定がなく、労使の自治にゆだねられています。この就業規則では、原則として有給とするが、日当が支給されるような公の職務の執行については、これに相当する額を給与から控除できるとしました。

次回は「休日及び休日の振替」の条文を作ります。

2018年6月13日水曜日


75-20180613

今回は、「公民権行使の時間」について解説します。

(解説)
1 「公民」とは、「国家又は公共団体の公務に参加する資格ある国民」であって、「公民としての権利」とは、「公民に認められる国家又は公共団体の公務に参加する権利」のことです。
主なものは、①選挙権及び被選挙権、②最高裁判所裁判官の国民審査、③特別法の住民投票、④憲法改正の国民投票、⑤地方自治法に基づく住民の直接請求権などです。
しかし、選挙応援、私的な権利を実現するための訴訟(たとえば、民事損害賠償請求)などは公民としての権利に含まれないと考えられています。

2 「公の職務」とは、国または地方公共団体の公務の適正な執行をはかる職務や、民意を反映するための職務を指します。
主なものは、①議員、②裁判員、検察審査会等の委員、③裁判所・労働委員会の証人、④選挙立会人などです。
しかし、単に労務の提供をするだけのもの(たとえば、地域の消防訓練)は、公の職務に含まれないと考えられます。

3 院長は、従業員が労働時間中に、上記の公民としての権利や公の職務を執行するために必要な時間を請求した場合には拒んではなりません。例外的に、権利の行使や公の職務の執行に支障とならない限度で時刻の変更が認められているに過ぎません(労働基準法7条)


次回も引続き「公民権行使の時間」について解説します。

2018年6月5日火曜日


74-20180605

今回は、「公民権行使の時間」についての条文を作ります。

第○条(公民権行使の時間)
1 選挙権その他公民としての権利を行使し、又は公の職務(裁判員を含む)を執行するために必要な時間は、従業員の請求によりこれを与える。但し、権利の行使又は公の職務の執行に妨げがない限り、請求された時刻を変更することがある。
2 前項の時間については有給とする。但し、公の職務の執行に対する日当等が支給される場合は、これに相当する額を控除することがある。

次回は、「公民権行使の時間」の条文の解説をします。

2018年5月29日火曜日


73-20180529

今回は、「割増賃金に関するトラブル」の裁判例を紹介し、そのトラブルの解決方法を考えます。

(解説)
10 割増賃金の計算の基礎に入れなくてもよい賃金については、前回(第72回)の解説8で述べたとおりです。
このうち家族手当、通勤手当、別居手当、子女教育手当、住宅手当については、労働と直接関係が薄く、個人的事情に基づいて支払われるものであって、時間外労働等がなされたからといって割増賃金として増額されるべき性格のものではなく、したがって割増賃金の計算の基礎から除かれたものであると考えられています。

11 家族手当と通勤手当が、割増賃金の計算の基礎になるかどうかが争われた裁判例があります。
「壺坂観光事件(奈良地裁判決 昭和56年)」です。
この事件では、家族手当が家族構成に関係なく一律に支給され、通勤手当は通勤距離等に関係なく一律に支給されていました。
裁判所は、家族手当や通勤手当は上記のような理由に基づいて例外的に割増賃金の計算の基礎から除かれたものであるから、名称が家族手当や通勤手当であっても、家族構成員の属性や数に関係なく、また通勤距離等とは無関係に一律に支給されているような場合には、除外賃金には当たらないと判示しました。

12 歯科医院でよく問題になるのは住宅手当です。
従業員に一律に一定額を支給しているケースが見受けられます。これも従業員の個別の事情に応じた手当額にしなければ除外賃金とは認められません。
たとえば、家賃の一定割合、住宅ローン返済額の一定割合を補助するような運用にする必要があります。

次回は、「公民権行使の時間」についての条文を作ります。

2018年5月15日火曜日


72-20180515

今回は、割増賃金の具体的な計算方法を解説します。

(解説)
7 割増賃金を計算する場合の1時間当たりの単価(以下「時間単価」という)の計算方法は、労働基準法施行規則19条に定められています。
月給の従業員の場合は、月給を月の所定労働時間数(月によって所定労働時間数が異なる場合は、1年間における1か月平均所定労働時間数)で除した金額がその従業員の時間単価です。
具体的には、[基本給+諸手当(家族手当、通勤手当などの除外手当を除く)]÷1年間の月平均所定労働時間数となります。
この計算式の「1年間の月平均所定労働時間数」は、[(365―年間所定休日数)×1日の所定労働時間]÷12です。

8 割増賃金の計算の基礎に入れなくてもよい賃金は、①家族手当、②通勤手当、③別居手当、④子女教育手当、⑤臨時に支払われた賃金、⑥賞与など1か月を超える期間ごとに支払われる賃金、⑦住宅手当です。
以上の賃金以外の賃金は、すべて割増賃金の基礎となる賃金に入れなければなりません。なお、これらの賃金は、単に名称で判断するのではなく、当該手当・賃金が実質的にその性格に合致しているかどうかで判断します。
また、割増賃金の基礎となる賃金は、「通常の労働時間の賃金」ですから、時間外の労働に対する割増賃金、深夜労働割増賃金はこれに含まれません。

9 1日の所定労働時間が8時間、年間所定休日が120日(定休日105日、祝祭日など15日)、基本給15万円及び除外手当を除く諸手当5万円(月給20万円)の従業員の、1時間当たりの割増賃金単価は、次のようになります。


{ 20万円÷[(365日ー120日)× 8時間 ÷ 12か月]}×1.25 =1,531 円


次回は、「割増賃金に関するトラブル」の裁判例を紹介し、その解決方法を考えます。

2018年5月8日火曜日


71-20180508

今回も引続き「割増賃金を支払う場合」の解説をします。

(解説)
4 多くの歯科医院では、1週間に1日の休診日が決まっていますから、法定休日(1週間に1日も休日が確保されない場合)の労働は発生しないと思われます。
しかし、①振替休日を行った結果、1週間に1日の休日が確保できなかった場合や、②急患に対する対応など業務の都合によりやむを得ず法定休日に労働させるような場合が考えられます。
このような場合は、35%増以上の割増賃金を支払わなければなりません。

5 法定外の休日の労働により、1週間の法定労働時間(40時間)を超える場合には、25%増以上の割増賃金が発生します。

6 最近、顧客へのサービス向上のために、午後10時過ぎまで診療している医院も見受けられます。労働時間が深夜(午後10時から翌日午前5時までの時間帯)に及ぶ場合には、25%増以上の深夜労働割増賃金を加算する必要があります。

次回は、割増賃金の具体的な計算方法を解説します。

2018年5月1日火曜日


70-20180501

今回は「割増賃金を支払う場合」の解説をします。

(解説)
1 従業員にとって、どのような場合に割増賃金が支払われるのかは切実な問題です。割増賃金を正確に計算して給与を支払っているかどうかは、従業員の院長に対する信頼に関わり、ひいては従業員の定着をも左右します。
このため、私は、従業員を採用する際に就業規則の説明会を開き、その際、どのような場合に割増賃金が発生するか、その計算方法、従業員各人の割増賃金単価等を文書で交付することにしています。これが従業員の定着に大きく貢献していると考えています。

2 1週間の時間外労働を計算する場合に、すでにカウントされた日々の時間外労働は除いて計算します(2重に計算する必要はありません)。

3 労働時間を計算するときは、実労働時間を用います。したがって、休憩時間、欠勤、遅刻、早退の時間を含めません。誤解が多いのは年次有給休暇を取得した時間です。これは、労務の提供がないので、実労働時間とはなりません。

次回も「割増賃金を支払う場合」の解説をします。




2018年4月24日火曜日


69-20180424

今回は、「割増賃金を支払う場合」に関する条文を作成します。

第〇条(割増賃金を支払う場合)
1 次の各号に該当する時間があるときは、時間外労働割増賃金を支払う。
  1日については、8時間を超えて労働した時間
  1週間については、40時間を超えて労働した時間(前号の時間を除く)
2 前項の時間を計算するときは、実労働時間を用いるものとし、休憩時間、欠勤、遅刻、早退及び年次有給休暇の時間を含めない。
3 第1項第2号の1週間は、日曜日を起算日とする。
4 法定休日(1週間に1日も休日が確保されなかった場合)に労働させた場合には、その労働させた時間に対して法定休日労働割増賃金を支払う。
5 法定休日以外の休日に労働させた場合(振替休日を与えた場合を含む)において、第1項第2号に該当するときは、時間外労働割増賃金を支払う。
6 深夜の時間帯(午後10時から翌日の午前5時までの時間帯)に労働させたときは、深夜労働割増賃金を加算する。

次回は、「割増賃金を支払う場合」の条文について、解説をします。

2018年4月18日水曜日


68-20180418

今回は「一斉休憩」の解説をします。

(解説)
3 一斉休憩が困難な事業については、一斉休憩の原則の例外が設けられており(労働基準法40条、同施行規則31条)、歯科医院はこれに該当する事業(病院等保健衛生の事業)と考えられます。しかし、私は、労使協定によって一斉休憩の適用除外のルールを明らかにするように薦めています。

4 歯科医院では、①治療時間が延びる場合、②アポイントどおりに来院されない患者さんに対処しなければならない場合、③急患の処置をしなければならない場合、④休憩時間中の電話応対のために当番を決める必要もあります。このようなケースに備えて、あらかじめ労使協定によって一斉休憩の適用除外のルールを具体的に決めておいたほうが医院の円滑な運営に役立ちます。

5 医院は休憩時間を従業員に自由に利用させなければなりません(労働基準法34条3項)。これについて、休憩時間中の外出が問題になることがあります。休憩時間の自由利用に関して、職場の規律を保持するうえで必要な制限を加えることは、休憩の目的を損なわない限り差し支えないとされています(行政通達)。しかし、歯科医院では、独身の女性だけでなく、ひとりで子供を育てている女性も少なくありません。このような従業員に対して、銀行や役所の手続、買物などのために外出することを広く認めることが、ひいては従業員の定着に資することになります。

次回は「割増賃金を支払う場合」の条文を作ります。

2018年4月11日水曜日


67-20180411

今回は「一斉休憩」の解説をします。

(解説)
1 休憩時間とは、従業員が業務から完全に離れることを権利として保障されている時間であって、単に業務に従事していない状態をいうのではありません。
歯科医院では、休憩時間中(この就業規則では、13時から14時までの60分間及び15分間の交代休憩<第57回参照>)にも患者さんや取引業者から頻繁に電話があります。
この電話応対のために当番を決めて待機させる時間は労働時間となります。

2 労働基準法は、1日の労働時間が6時間を超える場合は少なくとも45分、8時間を超える場合は少なくとも60分の休憩時間を労働時間の途中に与えなければならないと規定しています(労働基準法34条1項)。
さらに、この休憩時間は一斉に与えなければならず(同条2項)、それを自由に利用させなければならないとしています(同条3項)。

次回も引続き「一斉休憩」の例外の解説をします。

2018年4月3日火曜日


66-20180403

今回は、歯科医院の従業員の「一斉休憩」に関する条文を作成します。

第〇条(一斉休憩)
1 医院は、従業員に対し、第○条の休憩時間(15分間の交代休憩を除く)において、一斉に休憩を与えるものとする。
2 前項にかかわらず、業務上の必要があるときは従業員の過半数を代表する者と労働基準法34条第2項但書に基づき労使協定を締結し、休憩を一斉に付与しないことがある。

次回は、歯科医院の従業員の「一斉休憩」についての条文の解説をいたします。

2018年3月27日火曜日

65-20180327

今回も引続き「1か月単位の変形労働時間制」の解説をします。


(解説)
13 1か月単位の変形労働時間制では、各日・各週の所定労働時間を具体的に特定する必要がありますが、いったん特定した労働時間を変更することができるかという問題があります。これについては、①1日の所定労働時間を変更せずに、始業・終業時刻を変更することは可能です(前回の解説12を参照)。但し、就業規則に「業務上やむを得ない事情により、前項の時間を繰り上げ又は繰り下げることがある」旨の規定(第57回の条文参照)が必要です。

14 しかし、②1か月間の所定労働時間数を変更することなく、1日の所定労働時間数を変更する(例えば、○日の所定労働時間が8時間で、△日の所定労働時間が10時間である場合に、○日の所定労働時間を10時間に、△日の所定労働時間を8時間に変更し、1か月の所定労働時間171時間は変えない)ことができるでしょうか?
就業規則であらかじめこのような変更ができる旨の規定を設けていれば可能であるという解釈もできます。
しかし、このような変更を認めると、1か月単位の変形労働時間制では「各日・各週の所定労働時間を具体的に特定する必要がある」という要件を潜脱することになりますし、変更する頻度が多かったり、直前になって変更する旨の通知を行うような場合には、従業員の生活設計が不安定になるおそれがあります。このような理由から、上記②のような変更は認められないと考えます。

15 さらに、③1ヶ月間の所定労働時間数を変更することになるような1日の所定労時間数の変更はできません。

16 1か月単位の変形労働時間制では、残業時間の把握の仕方、休日振替えの問題その他多くの問題がありますから、その導入に際しては、社会保険労務士に相談されることをお薦めいたします。


次回は「一斉休憩」の条文を作ります。

2018年3月8日木曜日

64-20180308
今回も引続き「1か月単位の変形労働時間制」の解説をします。

(解説)
10 1か月単位の変形労働時間制を採用する場合、「変形期間における各日・各週の労働時間」を定める必要があります。
しかし、歯科医院の場合、1か月先のアポイントの状況により、各日・各週の労働時間を就業規則で具体的に定めることは難しいでしょう。
そのため、各日・各週の労働時間は「労使協定」で定めることとしています。
加えて、運用上、労働時間・残業時間を正確に把握するために、1か月毎の「労働時間管理表(エクセル仕様)」を作成して管理することをお薦めしています。

11 1か月を平均して、週40時間の範囲内であっても、使用者(院長)が業務の都合により恣意的に労働時間を変更することはできません(行政通達)。

12 就業規則には、「始業・終業時刻」を規定する必要があります(労働基準法89条1項)。この就業規則では、これを3項に規定しました。
各日の所定労働時間を変更しない範囲で、始業・終業時刻を繰上げ・繰下げすることはかまわないと考えますので、業務上やむを得ない事情があるときは、始業・終業時刻を変更することができることとし、この場合には、該当する従業員に対して前日までに通知するようにしました。


次回も引続き「1か月単位の変形労働時間制」の解説をします。

2018年2月26日月曜日

63-20180226
今回も引続き「1か月単位の変形労働時間制」の解説をします。

(解説)
7 1か月単位の変形労働時間を採用する場合、「1か月以内の一定の期間を平均し1週間当たりの労働時間が前条第1項の労働時間[労基法32条1項で定める40時間]を超えない定め」をしなければなりません(労働基準法32条の2第1項)。そこで、この就業規則の条文の第2項で、「前項の場合の所定労働時間は、1か月を平均して1週間当たり40時間以内とする」と規定しています。

8 「1か月を平均して1週間当たり40時間以内」とは、どのような意味でしょうか?具体的には、次の計算式によって、1か月における所定労働時間の合計が、法定労働時間の総枠の範囲内になければならないということです。

その計算式は、40×(1か月の暦日数÷7)=法定労働時間の総枠です。

9 前項の計算式から、1か月の所定労働時間の合計は、1か月31日の月は177時間、1か月30日の月は171時間、1か月28日の月は160時間となります。


次回も引続き「1か月単位の変形労働時間制」の解説をします。

2018年2月7日水曜日

62-20180207
今回も引続き「1か月単位の変形労働時間制」の解説をします。

(解説)
4 就業規則は、使用者と労働者との労働契約の内容(労働条件)を定めたものです(労働契約法7条「労働者及び使用者が労働契約を締結する場合において、使用者が合理的な労働条件が定められている就業規則を労働者に周知させていた場合には、労働契約の内容は、その就業規則で定める労働条件によるものとする<以下略>」)。
したがって、就業規則に「1か月単位の変形労働時間制」の定めをした場合は(本条第1項)、当該歯科医院の従業員にその労働時間制のもとで就労することを義務づけることができます。

5 1か月単位の変形労働時間制を採用する場合、まず「①対象となる労働者の範囲」を定めなければなりません。そこで、第1項で、歯科衛生士(DH)がその対象であることを定めています。

6 次に、「②変形期間」と「③変形期間の起算日」を定めます。変形期間は1か月以内であることが必要ですから、本条第1項では変形期間を「1か月」としました。起算日は、賃金計算期間の初日にした方が便利ですから、月末締めの医院では起算日を「毎月1日」とします。


次回も引続き「1か月単位の変形労働時間制」の解説をします。

2018年2月1日木曜日

61-20180201
今回は、「1か月単位の変形労働時間制」の解説をします。

(解説)
1 1か月単位の変形労働時間制は、各種の変形労働時間制のなかで、実務上最も用いられている制度です。これは、各日ないし各週毎に労働時間の繁閑の差がある場合や、週休2日制を実施できないような場合に有効な制度です。歯科医院では、患者さんのニーズに応えるために、夜間や日曜日・祭日の診療を行うところが増えており、DHに対して1週間に4日の労働、3日の定休日を採用しているところが普通になりつつあります。

2 このような場合に、医院は、就業規則又は労使協定によって、1か月を平均して1週間あたりの労働時間が週の法定労働時間を超えない定めをした場合は、特定された週において1週の法定労働時間(原則40時間)を超えて労働させることができ、又は特定された日において1日の法定労働時間(原則8時間)を超えて労働させることができます(労働基準法32条の2)。

3 1か月単位の変形労働時間制を採用するには、就業規則に規定するか又は労使協定の締結・届出が必要です。実務上は、就業規則で定める場合が多いので、以下ではこれを前提にして解説することに致します。


次回も引続き「1か月単位の変形労働時間制」の解説をします。

2018年1月24日水曜日

60-20180124

今回は、「1か月単位の変形労働時間制」に関する条文を作成します。

第〇条(1か月単位の変形労働時間制)
1 業務上の必要があるときは、第○条にかかわらず、歯科衛生士に対し、毎月○日を起算日とする1か月単位の変形労働時間制を適用することがある。
2 前項の場合の所定労働時間は、1か月を平均して1週間あたり40時間以内とする。
3 各日の始業時刻、終業時刻及び休憩時間は次のとおりとする。但し、業務上やむを得ない事情により、これらを変更することがある。この場合、該当する従業員に対して当該労働日の前日までに通知する。

始業時刻
終業時刻
休憩時間
日から   日
時   分
時   分
時  分から  時  分
日から   日
時   分
時   分
時  分から  時  分
日から   日
時   分
時   分
時  分から  時  分
日から   日
時   分
時   分
時  分から  時  分


次回は、「1か月単位の変形労働時間制」についての条文の解説をいたします。
59-20180118
今回は、前回に引き続き「原則としての労働時間及び休憩時間」の解説をします。

(解説)
5 労働基準法で定められている労働時間(法定労働時間<1日8時間、1週40時間>)を超えて労働させた場合は、割増賃金を支払う必要があります。

6 タイムカードは、業務を開始する前と業務を終了した後に打刻するように、従業員を指導しましょう。歯科医院では、始業時刻ぎりぎりに出勤してタイムカードを打刻し、退勤直前にタイムカードを打刻する医院が見受けられます。このような慣行が長期間続いていると、それが始業時刻・終業時刻の基準になりますから注意が必要です。

7 業務の都合で、始業時刻、終業時刻を変更(繰り上げ又は繰り下げ)しなければならない場合があります。このような事情に対応するために、第3項で「業務上やむを得ない事情により、前項の時間を繰り上げ又は繰り下げることがある」と規定しました。


次回は、「1か月単位の変形労働時間制」の条文を作ります。
58-20180111
今回は、「原則としての労働時間及び休憩時間」の解説をします。

(解説)
1 労働基準法上の「労働時間」とは、使用者(医院)の指揮命令下にある時間とされています(三菱重工長崎造船所事件・最高裁平成12年判決)。したがって、歯科医院では、院長の明示又は黙示の指示によりその業務に従事する時間(実労働時間)と考えればいいと思います。

2 歯科医院では、休憩時間中にも患者さんからの電話がありますから、この電話応対のために待機する時間も使用者の指揮命令下にある時間として労働時間となります。ですから、私は、その日の電話応対の担当者を決めておくようにアドバイスしています。

3 歯科医院では、DHの技術や接遇の質を向上させるために外部研修を受講させることが少なくありません。この場合に、院長の明示又は黙示の指示があれば、労働時間として評価されますから、注意が必要です。

4 始業及び終業の時刻は、就業規則の絶対的必要記載事項とされていますから、必ず明示しなければなりません。


次回も引続き「原則としての労働時間及び休憩時間」の解説をします。

2018年1月11日木曜日

57-20171221

今回は、歯科医院の従業員の「原則としての労働時間及び休憩時間」に関する条文を作成します。

第○条(原則としての労働時間及び休憩時間)
1.所定労働時間は、1日については7時間45分、1週間については38時間45分とする。
2.所定労働日の始業時刻、終業時刻及び休憩時間は次のとおりとする。

始業・終業時刻
休憩時間
始業時刻   午前9時
終業時刻   午後6時
①13時から14時までの60分間
②午後1回15分間(交代休憩)

3.業務上やむを得ない事情により、前項の時間を繰り上げ又は繰り下げることがある。


次回は、「原則としての労働時間及び休憩時間」についての解説をします。