2022年7月27日水曜日

 

196-20220727

引続き「懲戒の種類及び程度」について解説します。

(解説)

24 懲戒解雇の場合に退職金を減額又は不支給にすることが当然に許されるわけではありません。退職金は、賃金の後払いの性格や所得保障の意味もありますから、従業員のこれまでの勤続の功労を帳消しにするほど著しい背信行為が認められる場合に限られます。裁判例もこの傾向にあります。歯科医院においては、たとえば歯科衛生士を懲戒解雇した場合、退職金を一律に不支給とするのではなく、この就業規則のように「・・・その状況を勘案し、退職金の全部又は一部を支給しない」(第185回参照)と規定して、院長の裁量権を留保しておくのが実務上は妥当であると考えます。

25 懲戒解雇は、従業員にとってきわめて過酷な制裁であり、その有効、無効を判断するには慎重を要する場合が多く、退職金の減額又は不支給の選択も絡むので、事前に社会保険労務士に相談されることをお薦めいたします。

次回は「けん責、減給、出勤停止及び降職・降格」に関する条文を作成します。

2022年7月20日水曜日

 

195-20220720

引続き「懲戒の種類及び程度」について解説します。

(解説)

22 懲戒解雇が無効とされた裁判例。会社から嫌がらせを受けた従業員が、弁護士に相談する過程で会社の顧客・人事情報を開示したことを理由として懲戒解雇された事案。裁判所は、企業情報を第三者に開示することは原則として守秘義務違反になるものの、自分を救済するために守秘義務を負う弁護士に顧客・人事情報を開示したものであるから、従業員の義務違反が否定される特段の事情に当たるとして懲戒解雇を無効としました(東京地裁・平成15年)。

23 懲戒解雇が有効とされた裁判例。会社に在職中に、重要な機密情報を転職先に漏らしたことを理由として懲戒解雇された事案。裁判所は、きわめて背信性の高い行為であるとして懲戒解雇を有効としました(東京地裁・平成14年)。裁判例は、暴行、業務妨害、金銭の着服・不正受給、企業秘密の漏洩など、悪質で背信性がきわめて高い行為である場合について懲戒解雇を有効としています。

次回も「懲戒の種類及び程度」について解説します。

2022年7月13日水曜日

 

194-20220713

引続き「懲戒の種類及び程度」について解説します。

(解説)

20 労働契約法15条は、「使用者が労働者を懲戒することができる場合において、当該懲戒が、当該懲戒に係る労働者の行為の性質及び態様その他の事情に照らして、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、当該懲戒は、無効とする。」と規定しています。懲戒解雇が有効とされるには、①「使用者が労働者を懲戒することができる場合」でなければならず、そのためには懲戒解雇の理由が就業規則に明記されており、②従業員の行為が懲戒解雇の理由に該当し、「客観的に合理的な理由」があると認められ(懲戒解雇事由該当性)、③処分の相当性と手続の適正さにおいて「社会通念上相当」であると考えられる必要があります(社会通念上の相当性の存在)。

21 裁判例は、懲戒解雇事由該当性を厳しく判断するとともに、従業員の義務違反や非違行為の性質・態様、勤務状況や反省状況、使用者の対応の適否などを従業員の有利な方向に考慮し、懲戒解雇権の発動を規制する傾向にあります。歯科医院においても歯科衛生士、歯科助手などの従業員を懲戒解雇することは十分慎重でなければなりません。

次回も「懲戒の種類及び程度」について解説します。

2022年7月6日水曜日

 

193-20220706

引続き「懲戒の種類及び程度」について解説します。

(解説)

18 この就業規則は「懲戒解雇」について、「予告期間を設けることなく即時に解雇する。但し、労働基準法20条1項但書の定める解雇予告除外事由がある場合には、解雇予告手当を支給しない。懲戒解雇となる者には、その状況を勘案し、退職金の全部又は一部を支給しない」と規定しています。

19 懲戒解雇は、懲戒(制裁)として行なわれる解雇であり、懲戒の中で最も重い処分です。懲戒解雇された従業員は、働く職場と退職金請求権を失うだけでなく、不名誉な処分を受けたために再就職が困難になるという重大な不利益を被ります。したがって、懲戒解雇が適法になされたかどうかについては厳しく判断されることになります。すなわち、歯科医院においては、たとえば歯科衛生士について、職場から排除しなければならないほどの重大な義務違反があり、かつ医院の業務を阻害して実害を発生させた場合には、懲戒権を発動できると解すべきでしょう。

次回も「懲戒の種類及び程度」について解説します。