2020年7月22日水曜日


122-20200730(新型コロナ対応「労働条件の変更(定期昇給の凍結)」解説

引続き、新型コロナウイルスの影響により従来の労働条件を変更せざるを得なくなった場合の対応について解説します。

今回から数回にわたって「定期昇給の凍結」について解説することにします。

1 患者さんが新型コロナウイルスに感染するのを避けるために受診(通院)を控える傾向がみられ、それによって経営状況が悪化した医療機関が少なくないといわれます。
歯科医院の多くは、これまでも競争過多による患者さんの減少などで経営環境は必ずしも良好とはいえない状況でした。
加えて、新型コロナウイルスの影響による受診(通院)控えでさらに売上を減らした医院があるといいます。
このような状況に鑑みて、定期昇給を凍結する(見送る)ことができるのか、できるとしたらどのような条件が必要かについて考えてみましょう。

2 ここで、「定期昇給」と「ベース・アップ」の違いについて触れておきます。
「定期昇給」とは、毎年一定の時期を定め、従業員の能力や医院に対する貢献度等を勘案しつつ、定期的に賃金の基本的部分を増額することです。 

3 たとえば、21歳のDHAさんの基本給が250,000円の場合、これを5,000円増額して255,000円にすることが「定期昇給」です。
「ベース・アップ」とは、DH全員の賃金水準を一律に引き上げるものです。

4 たとえば、DH全員の基本給を2,000円引き上げて、21歳のAさんの基本給250,000円を252,000円に、22歳のBさんの基本給260,000円を262,000円に、23歳のCさんの基本給270,000円を272,000円にすることを「ベース・アップ」といいます。

5 定期昇給とベース・アップを同時に行なうと、たとえば、Aさんの基本給は257,000円になります。
定期昇給もベース・アップも人件費の増加になります。
定期昇給は、中途退職や定年退職によって従業員が入れ替るので人件費の負担はそれほど増しませんが、ベース・アップは、全員の基本給を底上げすることですから、将来にわたって人件費の負担が増すことになります。

次回も引続き「定期昇給の凍結」について解説します。

2020年7月16日木曜日


121-20200716(新型コロナ対応「労働条件の変更(就業時間の繰上げ・繰下げ)」解説

今回も引続き、公共交通機関を利用して通勤する従業員が新型コロナウイルスに感染するのを防止するために、臨時的に就業時間を繰上げる(早くする)又は繰下げる(遅くする)場合について解説します。

3 新型コロナウイルスの感染を避けるために臨時的に始業・終業時刻を変更するのではなく、就業規則で定める始業・終業時刻を将来にわたって恒常的に変更する場合には、就業規則を変更し、従業員の意見書を添付して、所轄労働基準監督署長に届出る必要があります。
この場合に問題になるのは、たとえば、勤務時間帯を大幅に夜間の勤務時間帯にシフトするなど変更の幅が大きい場合には、従業員にとって労働条件の不利益変更となる可能性があることです。
労働契約法は、労働条件の変更は合意によるとする原則を確認し(労働契約法8条)、次いで就業規則による労働条件の不利益変更は原則として労働者との合意によらずに行なうことはできないと規定しています(同法9条)。
そのうえで、①変更の合理性、②変更後の就業規則の周知という2つの要件を満たした場合に限り、例外的に就業規則による不利益変更を認めています(同法10条)。
なお、就業規則を作成していない歯科医院が、新規に就業規則を作成した場合、その就業規則の規定によってそれまで適用されていた労働条件が不利益に変更された場合も、同法10条を類推適用し、①及び②の要件を満たした場合に限り、新規に作成した就業規則による不利益変更を有効とすることになります。
労働条件の不利益変更については、合意(同意)の認定、変更の合理性、周知の方法など難しい問題がありますので、社会保険労務士にご相談下さい。

次回は、「業績不振による定期昇給の凍結」について解説します。



2020年7月9日木曜日


120-20200709(新型コロナ対応「労働条件の変更(就業時間の繰上げ・繰下げ)」解説

今回も引続き、公共交通機関を利用して通勤する従業員が新型コロナウイルスに感染するのを防止するために、臨時的に就業時間を繰上げる(早くする)又は繰下げる(遅くする)場合について解説します。

2 労働契約上はいったん成立した始業・就業時刻の合意を医院が一方的に変更することはできず、個々の従業員の同意を得る必要があります(労働契約法8条)。
実務上は、従業員全員の同意が得られない場合に備えて、あらかじめ就業規則に「業務上やむを得ない事情により、始業時刻、終業時刻を繰上げ又は繰下げることがある」のような規定を設けて、医院に始業・終業時刻を変更する裁量権を確保しておく方法がとられています(この就業規則作成講座でも同様の規定を設けています)。
ただし、歯科医院では、子供を保育園に預けて働いている女性従業員が少なくありませんから、たとえ就業規則にこのような規定がある場合であっても、送り迎えに影響がないように特別の配慮をする必要があると考えます。

次回も引続き「就業時間の繰上げ・繰下げ」について解説します。


119-20200709(新型コロナ対応「労働条件の変更(就業時間の繰上げ・繰下げ)」解説

これから数回にわたって、新型コロナウイルスの影響により従来の労働条件を変更せざるを得なくなった場合の対応について解説します。

今回は、公共交通機関を利用して通勤する従業員が新型コロナウイルスに感染するのを防止するために、臨時的に就業時間を繰上げる(早くする)又は繰下げる(遅くする)場合について解説します。

1 始業時刻が9時、終業時刻が18時で、休憩時間が1時間(実労働時間8時間)の歯科医院で、実労働時間と休憩時間帯は変えずに、始業時刻を10時00分、終業時刻を19時00分に変更する場合について考えてみましょう。
労働基準法は、労働時間を繰上げ又は繰下げる場合について何も規定していません。
行政解釈では、「交通機関の早朝ストライキ等1日のうち一部の時間帯のストライキによる交通事情等のため、始業・終業時刻を繰下げ、繰上げることは、実働8時間の範囲内である限り時間外労働の問題は生じない」とか、停電等で一時業務を中断して自由に休憩させ、送電回復後に休憩させた時間ぶんだけ終業時刻を繰下げた場合について、「労働時間が通算して1日8時間又は週の法定労働時間以内の場合には割増賃金の支給を要しない」としています。
このように、医院が1週40時間、1日8時間を超えない範囲で就業時間を臨時的に繰上げ又は繰下げることは、労働基準法に違反するものではありません。

次回も引続き「就業時間の繰上げ・繰り下げ」について解説します。