2022年5月25日水曜日

 

187-20220525

引続き「懲戒の種類及び程度」について解説します。

 (解説)

4 懲戒処分が有効と認められるためには、次の4つの要件が必要です。すなわち、①使用者が懲戒権を有すること、②従業員の行為が就業規則の懲戒事由に該当すること(懲戒事由該当性)、③行なった懲戒が懲戒処分の濫用と評価されないこと、④弁明の機会を与えるなど就業規則で定められた手続違反がないこと等です。

5 ①使用者が懲戒権を有するためには、懲戒処分の根拠となる就業規則規定(例:歯科衛生士が歯科医院の機密情報を漏洩した場合<懲戒事由>及びこれに対する懲戒処分<減給等懲戒処分の種別>)が当該処分時に制定されていることが必要であり、これが制定されていない場合、当該処分は根拠を欠くものとして無効になります。

②従業員の行為が就業規則の懲戒事由に該当すること(懲戒事由該当性)については、就業規則の文言だけで形式的に判断するのではなく、実質的に判断する必要があり、加えて、歯科医院の職場秩序を現実に侵害した(前例で言えば、機密を漏洩したことによって医院に損害が発生した)ことを要するとされています。

③行なった懲戒が懲戒処分の濫用と評価されないことについては、従業員の行為がたとえ懲戒事由に該当する場合でも、それに対する懲戒処分の相当性(行為と処分のバランス。前例で言えば、軽微な機密の漏洩に対して最も重い懲戒解雇に処するような場合)が問題とされ、それが否定されれば(バランスを失する場合は)懲戒権の濫用となります。

④弁明の機会を与えるなど就業規則で定められた手続違反がないことについては、就業規則で従業員に弁明の機会が与えられているにもかかわらず、その手続を経過せずに懲戒処分を行なった場合は、重大な手続違反とされ、懲戒権の濫用と評価されます。

次回も引続き「懲戒の種類及び程度」について解説します。

2022年5月11日水曜日

 

186-20220511

今回から「懲戒の種類及び程度」について解説します。

(解説)

1 この就業規則では、①けん責、②減給、③出勤停止、④降職・降格、⑤諭旨解雇、⑥懲戒解雇等6種類の懲戒処分を定めています。使用者は、従業員の労働契約上の義務違反に対して解雇権や損害賠償請求権を有するわけですが、これらとは別にどうして懲戒処分を科すことができるのでしょうか?

2 これについて、裁判例は、懲戒権を行使するためには、あらかじめ就業規則において懲戒の種類及び事由を定めておくことを要するとしています(フジ興産事件・最高裁平成15年判決)。また、労働契約法は、「使用者が労働者を懲戒することができる場合において、当該懲戒が、当該懲戒に係る労働者の行為の性質及び態様その他の事情に照らして、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、当該懲戒は無効とする」と規定しています(労働契約法15条)。

3 このように、懲戒権は、就業規則の懲戒規定が、内容の合理性と周知を要件に労働契約の内容となり、懲戒権を発生させると考えられます。このような考え方によれば、懲戒権は、就業規則に規定されてはじめて発生するので、就業規則に定めた以外の理由によっては懲戒を行なうことはできないということになります。

次回も引続き「懲戒の種類及び程度」について解説します。