147-20210428
今回は、「定年退職」に関する条文を作成します。
第〇条(定年退職)
従業員の定年は満65歳とし、誕生日の属する月の給与締切日をもって定年退職する。
次回は、「定年退職」についての条文の解説をします。
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146-20210421
今回も引続き「当然退職」について解説します。
(解説)
3 従業員が事前の連絡なしに突然出勤しなくなり、スマホに電話しても本人が出ることはなく、医院に連絡するようにメッセージを残しても何の反応もない状況が長期にわたる場合があります。多くの歯科医院は人員に余裕があるわけではないので、このような行方不明の状況が続くと業務に甚だしい支障を来すことになります。このような場合に、不就労を理由として解雇ができますが、そのためには使用者の解雇の意思表示が当該従業員に到達することが必要です。しかし、行方不明の場合にはそれが不可能ですから、民法98条の「公示送達」の手続をとらなければなりません。公示送達とは、民事訴訟法の規定に従って裁判所の掲示場に掲示し、かつ、その掲示があったことを官報に掲載することによって使用者の解雇の意思表示が当該従業員に到達したとみなす制度です。
4 しかし、この公示送達は裁判所を用いる面倒な手続なので現実的ではありません。したがって、この就業規則では「行方不明となり50日以上医院に連絡しないで欠勤したとき」及び「従業員の所在が判明している場合であっても、医院からの連絡を避けて50日以上無断で欠勤する場合」を当然退職事由とし、欠勤開始日に退職の意思表示があったものとして取扱うことにしました。
5 行方不明等の期間を「50日」としたのは、民法627条2項を参考にしています。その内容は、月給制の歯科医院で、①使用者が、給与計算期間の前半に雇用契約を解約する意思表示をした場合、その計算期間の終了日をもって雇用契約が終了し、②使用者が、給与計算期間の後半に雇用契約を解約する意思表示をした場合、次の計算期間の終了日をもって雇用契約が終了するというものです。たとえば、給与計算期間が毎月1日から末日の月給制の歯科医院で、①使用者が7月1日に雇用契約を解約する意思表示をした場合、雇用契約は7月末日に終了し(この場合の最大日数は31日)、②使用者が7月16日に雇用契約を解約する意思表示をした場合、雇用契約は8月末日に終了します(この場合の最大日数は47日)。行方不明等の期間を設定するにあたり、従業員に最大限有利になるように考えると、50日(47日を上回る日数)に設定する必要があると思われます。
次回は「定年退職」の条文を作ります。
145-20210414
今回は、「当然退職」について解説します。
(解説)
1 雇用契約は、解雇以外にもさまざまな原因によって終了します。歯科医院の就業規則に規定しておく必要があるものは、①一定の事由が発生すると、従業員又は使用者が特別の意思表示をしなくても当然に雇用契約が終了するもの(当然退職)、②従業員が一定の年齢に達すると、従業員又は使用者が特段の意思表示をすることなく当然に雇用契約が終了する制度(定年退職)、③従業員と使用者の意思表示の合致(合意)によって雇用契約を終了させるもの(合意退職)、④従業員からの一方的な意思表示によって雇用契約を終了させるもの(辞職)などです。これらの退職に関する事項は、就業規則の絶対的必要記載事項とされていますから(労働基準法89条3号)、必ず就業規則に記載しなければなりません。
2 当然退職とは、前項で述べたように、一定の事由が発生した場合は従業員の意思表示を必要とせずに当然に雇用契約が終了することをいいます。①従業員が死亡した場合は、雇用契約当事者の一方が消滅することですから雇用契約は当然に消滅します。②休職期間が満了すると当然に退職となることは、この就業規則の「復職」に関する条文でも定めています(「休職期間が満了してもなお就業が困難な場合は、休職期間の満了をもって退職とする」と規定している。第25回復職の条文参照)。③法人である歯科医院の場合、従業員が取締役又は執行役員に就任した場合は、雇用契約を終了すると規定している医院が多いようです。ただし、従業員と役員を兼務している場合(「兼務役員」といいます)には雇用契約は終了しません。
次回も引続き「当然退職」の解説をします。
143-20210401
今回も引続き、「生理日の休暇」について解説します。
(解説)
5 年次有給休暇の発生には出勤率80パーセント以上が必要とされていますし(労働基準法39条1項)、精皆勤手当や昇給・賞与の支給に、「出勤率○パーセント以上の者をその対象とする」というような定めをしている場合があります。このような場合に、生理休暇を欠勤扱いすることは労働基準法68条違反になるのかという問題があります。これについては、①生理休暇中の賃金支払義務や欠勤の取扱いは労使の自治(労働契約、労働協約又は就業規則で定める内容)に委ねられているという側面と、②労使の自治に委ねられているといっても、それを無制限に認めると女性従業員(歯科衛生士、歯科助手、歯科技工士、歯科受付など)が生理休暇を請求する権利の行使を抑制することになるという2つの側面から考える必要があります。
6 上記の問題について判例は、不利益取扱いの趣旨・目的、労働者が被る経済的不利益の内容・程度、権利行使に対する事実上の抑制力を総合して、それらの制度(「出勤率○パーセント以上の者をその対象とする」というような定め)が労働者の権利行使を抑制し、法の趣旨を失わせる程度のものか否かを検討し、それが認められれば公序(民法90条)に違反して無効になると判断しています(最高裁・平成元年12.14判決)。行政通達も、女性従業員(歯科衛生士、歯科助手、歯科技工士、歯科受付など)に著しい不利益を課すことは法の趣旨に照らして好ましくないとしています。(注)民法90条「公の秩序又は善良の風俗に反する法律行為は、無効とする」。
7 たとえば、「賞与は出勤率90パーセント以上の従業員に対して支給する。生理休暇を欠勤扱いとする。出勤率90パーセント未満の場合には賞与を全額不支給とする」というような給与(賞与)規定の場合はどうでしょぅか?このような規定内容は、女性従業員(歯科衛生士、歯科助手、歯科技工士、歯科受付など)が生理休暇を請求する権利の行使を強く抑制することとなり、かつ女性従業員にとって著しい不利益となると考えられますから、このような規定は公序違反により無効となると思います。
次回は「当然退職」の条文を作ります。