56-20171127
今回は、前回に引き続き、従業員が請求した有給休暇を、院長が時季変更権を行使して変更したにもかかわらず欠勤した場合について解説をします。
(解説)
4 従業員から有給休暇の請求があったときに、従業員の請求どおりに有給休暇を与えることが歯科医院の「事業の正常な運営を妨げる場合」には、他の時季(常識的に「日」や「期間」と考えてよいでしょう)に有給休暇を与えることができるとされています(労働基準法第39条5項)。これを使用者の「時季変更権」といいます。
歯科医院は、「アポイント制」を採っており、その日の診療件数とそれに必要なDH等の人員があらかじめ計画されていますから、突然に有給休暇を請求されると、医院の業務に支障が出ることになります。
しかし、一般的には、人員不足を理由に「時季変更権」が認められることは難しいでしょう。院長は、代替勤務者を確保して勤務割を変更するなど、有給休暇を請求した従業員との利益を調整することに努力すべきでしょう。
判例では、通常の努力をすれば代替勤務者の確保が可能であったにもかかわらずその努力を怠った場合には、院長の時季変更権の行使は適法ではないとされています(弘前電報電話局事件・最高裁昭和62年判決)。
5 代替勤務者の確保が困難なため、従業員が年次有給休暇を取得すると直ちに必要な人員数を下回るというような場合であっても、「事業の正常な運営を妨げる場合」に該当するとは認められないとする判例があります(西日本JRバス事件・名古屋高裁平成10年判決)。
6 実務上、歯科医院では、従業員同志で話し合って、請求どおりに有給休暇が取れるように、“おたがいさま”の精神でうまく運用しているようです。
次回は、「労働時間及び休憩時間」に関する条文を作成します。